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ジダンはなぜマドリーに戻ったか。
会長との不仲を超えた計算と激情。 

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吉田治良

吉田治良Jiro Yoshida

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photograph byUniphoto Press

posted2019/03/12 11:30

ジダンはなぜマドリーに戻ったか。会長との不仲を超えた計算と激情。<Number Web> photograph by Uniphoto Press

ペレス会長の元に戻ったジダン監督。第2次政権は混迷極まるマドリーの立て直しから始まる。

アザールら獲得が加速か。

 おそらくペレス会長が執着するネイマール(パリ・サンジェルマン)の獲得は棚上げされ、エデン・アザール(チェルシー)など、1次政権時からジダンが求めていたタレントの獲得に向けて、ここからマーケットでの動きが加速するのではないか。

 さらに今シーズンは無冠が決定的で、CL出場権の確保がただひとつ課されたノルマ。さほどプレッシャーの掛からない状況で、いち早く来シーズンに向けた土台作りが進められるメリットもある。

 実際のところ、ベイルやイスコが傍若無人な振る舞いでチームから浮き上がり、さらにCL敗退後にはキャプテンのS・ラモスがペレス会長と口論を繰り広げるなど、統制も規律も失った現在のマドリーを立て直せるのは、カリスマ性と高いマネジメント能力を備えたジダンしかいないのかもしれない。

戦術はロナウドという揶揄を覆す。

 そしてもうひとつ、決断の背景にあったものを想像すれば、それは「意地」ではなかったか。

「ジダンは戦術を知らない。彼にとってはC・ロナウドこそが戦術なのだ」

 CLで3連覇の偉業を成し遂げても、マドリー1次政権下ではそんな陰口を叩かれてきた。個の能力で押し切るだけの、固く守ってカウンターを狙うだけのスタイルを、アンチフットボールと揶揄する者もいた。

 だからこそ、今度は絶対的エースを失ったマドリーで内容を伴った結果を残し、不当な評価を覆してみせると、彼は心に誓ったのではないか。それは、C・ロナウドが移籍したユベントスの監督になるよりも、チャレンジングな選択だったのだろう。現役時代、誰もが一流と認めた男は、指導者としても万人に一流と見なされなければ我慢がならないのだ。

 リーダーには、ふたつのタイプがあるという。

 ひとつは「クリスマスツリーの星」で、もうひとつが「風船を握る手」だ。簡単に言えば前者がカリスマ型、後者が調整型だが、1次政権のジダンに関して言えば、その両方の要素をバランスよく備えた“折衷型”だったように思う。

 滲み出るカリスマ性は隠しきれないが、その威光で選手たちをひれ伏させるわけではなく、誠実に向き合いながら組織として束ね、勝てるチームを作り上げる。とりわけ、C・ロナウドを巧みにターンオーバーに組み込み、終盤戦で一気にパワーを放出させる操縦術は特筆に値した。

【次ページ】 見たいのはバランスより激情。

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