欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
ジダンはなぜマドリーに戻ったか。
会長との不仲を超えた計算と激情。
posted2019/03/12 11:30
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Uniphoto Press
異例の決断の背景にあったのは、「男気」か「計算」か、それとも──。
現地時間3月11日、ジネディーヌ・ジダンが古巣レアル・マドリーの監督に電撃復帰した。契約期間は2022年6月30日までの3年半だという。
「この場所に戻って来られて嬉しく思う」
復帰会見でそう語ったジダンだが、昨年5月31日、チャンピオンズ・リーグ(CL)決勝でリバプールを下し、前人未到の3連覇を成し遂げたわずか5日後に辞任を表明してから、まだ1年も経っていない。さすがは現役時代、予測不能なプレーで対戦相手と観客を欺き続けてきたファンタジスタである。
辞任も青天の霹靂だったが──その意思をフロレンティーノ・ペレス会長に告げたのは記者会見の前日だったという──復帰はそれ以上に電撃的で、衝撃的だ。正直に言えば、正式発表された今もまだ信じがたい。
ペレス会長との冷めた関係。
「就任から3年が過ぎた(正確には2年半)。マドリーがこれからも勝ち続けるためには、今こそ変化が必要だった」
9カ月前、ジダンは辞任の理由をそう口にしている。しかし、その背景にペレス会長との冷めた関係があったとの噂は、当時からマドリー周辺で囁かれていた。
ビジネス優先で派手な仕掛けを好むペレスに対し、カネに無頓着で何よりも現場を大切にするジダン。選手を「商品」と見るか、ひとりの「人間」として見るかという点で対照的なふたりは、おそらく地の果てまで行っても、相容れることがないはずだ。
だからこそ、信じがたいのだ。
想像してみてほしい。あなたが中間管理職のサラリーマンで、そりの合わない上司の下で仕事をすることになったとする。それでもあなたは真摯に、ひたむきに働いて、トップの営業成績(CL制覇)を残した。
けれど上司は、あなたが貴重な人材と見なしていた部下たち(ペペ、アルバロ・モラタ、ハメス・ロドリゲスら)のクビを容赦なく切り捨て、それでいてその穴を埋める十分な人員補充もしてくれない。挙句の果てには、もっとも頼りにしていた右腕(クリスティアーノ・ロナウド)も、「給料が高すぎる」と言って追い出してしまうのだ。