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ジダンはなぜマドリーに戻ったか。
会長との不仲を超えた計算と激情。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byUniphoto Press
posted2019/03/12 11:30
ペレス会長の元に戻ったジダン監督。第2次政権は混迷極まるマドリーの立て直しから始まる。
忠誠心、男気はあるだろうが。
「もう、これ以上は無理だ」
きっとジダンはそう限界を悟って、マドリーを去ったはずなのだ。にもかかわらず、なぜわずか9カ月で、彼は横暴な上司の下へと舞い戻ったのだろうか。
「会長から電話をもらった。会長とクラブを愛しているから、私は今、ここにいる」
就任会見でジダンはそうコメントしたが、果たしてそれは本心なのか。
もちろん、「クラブへの忠誠心」や「男気」はあっただろう。
みずからの後任に指名されたジュレン・ロペテギが、就任から3カ月ともたずに解任され、続いて政権を託されたサンティアゴ・ソラーリも、ビニシウス・ジュニオールなど若手を抜擢して一時的には盛り返したが、結局チームを上昇気流に乗せることはできなかった。
バルセロナに大敗を喫してスペイン国王杯は準決勝で敗退が決定。その3日後に行われたラ・リーガのエル・クラシコにも敗れ、リーグ優勝も絶望的となった(第27節終了時点で首位バルサと勝ち点12差の3位)。そして、最後の希望だったCLは、決勝トーナメント1回戦でアヤックス・アムステルダムに不覚を取り、早くも4連覇の夢が潰えている。
底なし沼に落ち、もがき続ける古巣にジダンが手を差し伸べた。そう考えるのが普通なのかもしれない。
モウリーニョの度を越した要求。
ただ一方で、「計算」も働いていただろう。
ペレス会長としては、次期監督にこちらも元監督のジョゼ・モウリーニョを据えたかったはずだ。性格的な相性で言えばジダンよりもはるかに良く、実際唯一の後任候補としてメディアにも取り上げられていた(今シーズンの残り試合をワンポイントでクラレンス・セードルフに任せ、モウリーニョは来シーズンから指揮を執るとの報道もあった)。
しかし、モウリーニョの要求──セルヒオ・ラモス、マルセロ、カリム・ベンゼマ、ギャレス・ベイルの放出──が度を越していたため、ペレスも二の足を踏んだのだろう。悩んだ末に、最後はジダンに救いの手を求めている。
だとすれば、ペレスに貸しを作ったジダンは、再任にあたって十分な条件を引き出したに違いない。それは金銭面よりもむしろ、補強に関する権限だろう。