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トレランレースで参加者が滑落死。
主催者が考えた山における責任の行方。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

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photograph bySho Fujimaki

posted2019/03/10 11:00

トレランレースで参加者が滑落死。主催者が考えた山における責任の行方。<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

2018年11月に開催されたトレランレース「FunTrails」で挨拶をする奥宮俊祐。

「次に何か起きたら絶対に立ち直れない」

「でも、開催するまでは正直、ものすごく怖かったんです。次に何か起きたら、絶対に立ち直れませんから。最大限の安全対策を行っても、事故を100%防ぐことは不可能です。それでも大会として、あらゆる方法を考えるしかない。そのためには選手にも安全への意識を高めてもらう必要がありました」

 山の経験値を高めてもらうために大会の参加条件を厳しくし、選手が提出する「同意書」の内容を精査して「宣誓書」に改め、山のリスクを再認識してもらうよう努めた。事前に野外救急法の講習会を実施し、スタッフに参加してもらった。いずれは選手たちにも広く受講してもらいたいと考えている。

 共通の知識を持ち合わせていれば、何か起こったときに迅速な対応ができるからだ。大会当日には、緊急対策フローをスタッフ全員に配布し、首から提げてもらった。想定される事故レベルを明確にし、現場単位で救助要請の判断ができるようにした。

選手の場所を特定するシステム。

 さらに奥宮には、どうしても実現したいことがあるという。

「現在地を把握するための通信システム“LPWA(Low Power,Wide Area)”を実用化したいと考えています。現状では滑落や遭難事故が起きた際、選手の場所をすぐに確定するのが難しい。そこでLPWA発信器を選手に携行してもらい、常に正確な位置情報が把握できるようにしたいんです。

 1機50万円ほどの設置費がかかるアンテナを誰が設置するかを含め、資金的にも技術的にもまだまだ課題があるのですが、いずれは大会で活用できるようにしたいんです。必要性を感じている人はたくさんいるはずで、僕らこそが、やらなければいけないことだと思っています」

 あらゆる安全策を講じても、不慮の事故は防げない。そんな山における事故への結論に達した上で、それでも命を救うための可能性を追求していく。それが事故を経験した奥宮が導き出した指針だ。

【次ページ】 奥宮のライバルも山で命を落とした。

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奥宮俊祐
相馬剛

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