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トレランレースで参加者が滑落死。
主催者が考えた山における責任の行方。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2019/03/10 11:00
2018年11月に開催されたトレランレース「FunTrails」で挨拶をする奥宮俊祐。
大会を成功させることしかない。
それでも、なかなか立ち直れずにいた。これから先、自分はどう生きていけばいいのか。報告書が完成する頃、あるトレイルランニングのフォーラムで、奥宮は集まった大勢の参加者に事故について報告をし、頭を下げた。
涙をこらえながら、ひとつひとつの言葉を搾りだすように語る奥宮の姿を見て、会場にいた誰もが事故の重大さと、その事実に真正面から向き合おうとする奥宮の苦悩を知った。
「ようやく大会を続けていこうと決心できたのは、昨年5月頃のことです。多くの方々にご迷惑をかけてしまい、もう大会を開催することも、トレイルランナーであることも辞めようと思っていました。
でも、仲間やたくさんの方々が支えてくれましたし、ご家族や仲間のみなさんも続けてもいいと言ってくださって。大会をきちんと成功させて、亡くなられた方にも、ご遺族にもちゃんと報告しようと思いました」
地元への貢献は確かに届いていた。
ではどうしたらいいのか?
迅速に事故調査委員会を設け、しっかりした報告書をまとめて、今後の対策についても明確にしたことで、開催地の行政や地元の人たちも大会継続を後押ししてくれた。
それまで後援していた秩父市は、事故直後に市長が「今後は後援を止める」と発表したが、市内の商店街や商工会議所、旅館組合の人たちがこれまで通りのサポートを買って出てくれた。その裏には、第1回目から「地元への貢献」を大会目標のひとつに掲げてきた、奥宮への信頼があった。
「小さなもの1個でも地元で買うように心がけてきました。エイドで提供する食料の調達や簡易トイレのレンタルも全部地元で行ってきました。ドリンクはスポンサーから直接購入することもできるのですが、一度、販売店に卸してもらって購入したり。手間なんですけど、地域に貢献したいという大会創設時からの想いなんです。それを皆さんが汲み取ってくださったのだと思います」
これまで後援してきた飯能市に加えて、あらたに埼玉県も後援を申し出てくれた。
「驚きました。もしかしたら事故のことを知らないのではと思い、最初に確認したんです。そうしたら『知っています』と。『事故のときにどんな対応をして、その後どういう対策をとったかが大事だから』と仰ってくださいました」
継続的に環境モニタリング調査を行ってきたことも信頼に繋がったのではないかと奥宮は考えている。全国で市町村が後援するトレイルランの大会は多いが、県が後援する大会は少ない。