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トレランレースで参加者が滑落死。
主催者が考えた山における責任の行方。
posted2019/03/10 11:00
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Sho Fujimaki
決して忘れることのできない2つの山岳事故を背負った男がいる。プロトレイルランナーの奥宮俊祐(39)だ。
2017年11月18日、奥宮が大会実行委員長を務め、埼玉県秩父・奥武蔵エリアで行われたトレイルランニングレース「FunTrails100k」で、滑落事故が起きた。制限時間33時間以内に105kmの山道を走るこの大会で、スタートから4時間後の朝9時過ぎ、約15km付近でその事故は発生した。
滑落場所は、秩父・大持山(1291m)にさしかかる直線的でなだらかな下りの稜線。事故の目撃者は「事故現場までの道のりをゆっくりと進んでいた50代の男性選手が立ち止まった。前屈みになっていた体勢から立ち上がろうとしたとき、後方へ尻餅をつくように倒れ、男性の背面にあった斜面に転落した」と証言した。
大会本部が110番通報し、県警のヘリコプターが出動して選手を救出したが、残念ながら搬送先の病院で死亡が確認された。
事故直後、大会本部内では情報が錯綜していたという。当初は「小持山」と「大持山」という2つの山付近で2件の事故が起きたとの見方もあった。事故を受けて大会本部はレース中止を決定、スタッフから中止を告げられた約600名の参加者たちは、状況を把握できず、戸惑いながらも「何か重大な事故が起きたのでは……」と感じていた。
夕方には事故を報じるニュースが流れた。
調査を進めても原因が確定できない。
大会実行委員長を務める奥宮はすぐに、地元山岳連盟や大会スタッフの責任者、山岳救助隊関係者で「事故調査委員会」を設置した。滑落現場の検証を行い、選手の近くを走っていたランナーに話を聞き、識者からもできる限りの情報を集めた。なにが原因で、選手は滑落してしまったのかを明らかにしようとした。
だが、山での事故の宿命か、原因がはっきりとはわからなかったという。奥宮が語る。
「滑落地点を探しに行ったのですが、なかなか見つかりませんでした。可能性がありそうな場所をひとつひとつしらみつぶしにして、ようやく見つかったのですが、道幅もそれほど狭くない場所で、ここだったのかと……。ドクターによれば、心臓や脳などの不調で前屈みになった場合は前方に倒れるらしく、滑落前に後ろに倒れたということは、意識を失った可能性が高いということでした。ただ、原因を確定することはできません」