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トレランレースで参加者が滑落死。
主催者が考えた山における責任の行方。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

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photograph bySho Fujimaki

posted2019/03/10 11:00

トレランレースで参加者が滑落死。主催者が考えた山における責任の行方。<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

2018年11月に開催されたトレランレース「FunTrails」で挨拶をする奥宮俊祐。

奥宮のライバルも山で命を落とした。

 実は、奥宮は以前記した相馬剛の遭難事故にも関わっている。

 2014年7月、奥宮は相馬の妻・真由美さんから「マッターホルンに登った夫が帰ってこない」と最初に連絡を受けたのだ。スイスで開催されたレース「アイガーウルトラトレイル(101km)」にともに参加し、奥宮が先に帰国。相馬はスイスに残り、登山をしている中での遭難事故だった。真由美さんは、同じトレイルランナーだった奥宮を頼ったのだ。

「真由美さんが最初に自分に連絡してくれたからには、やるしかないと。頼ってくれたんだから、自分が最後まで見なきゃと思ったんです」

 スイスに住む友人に連絡し、懸命に捜索に動いてもらったが、行方はわからなかった。そこから奥宮の国内での奮闘が始まる。後援会をつくり、捜索のため、そして残された家族の生活のために、寄付金を募った。

 根底にあるのは、山への強い思いだ。

 自分も相馬も行動には責任を持ってきた。体力や技量に合わせて装備を整え、山に入り、走り、登ってきたつもりだ。日本山岳ガイド協会認定の登山ガイド(ステージII)の資格も有していた相馬は、トレイルランナーの中でもとりわけ安全意識が高かった。それでも事故に遭ってしまう。奥宮の中である変化があった。

「山でこれまでよりさらに慎重になり、天候などをみて引き返すようになりましたね。無理をしなくなった。自分で登山に行くときも、お客さんを連れてトレイルランツアーをするときも、些細なリスクにより目が向くようになりました」

「山に入ることは自己責任だけど」

 ただ、たったひとつだけ、相馬剛にいいたいことがある。

「山に入ることは自己責任だし、相馬さんの事故も100%自己責任だと思っています。それでも、相馬さんがよくなかったのは、現地の山岳保険に入っていなかったこと。もしものときの捜索、救助には莫大な費用がかかるので、それは最低限やらなければいけないことでした。家族に対する責任を果たしていなかったことが、いちばんダメだったと僕は思います。結果的に、真由美さんが苦労することになったわけじゃないですか。

 でもね、気持ちもわかるんです、相馬さんの。きっと天候を見ながら途中で戻ろうと思っていたんじゃないかな。でも魔が差してしまった。アスリートとしてのスイッチが入ってしまったんですよ、登頂したいという……」

【次ページ】 それでも自然に身を委ねたいと願ってしまう。

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奥宮俊祐
相馬剛

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