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<錦織圭、陰のコーチの正体>
ダンテ・ボッティーニ「コーチは天職」――チームの要は苦労人。
text by

稲垣康介(朝日新聞)Kosuke Inagaki
photograph byGetty Images
posted2015/06/18 06:00

ダンテ・ボッティーニ。
四大大会で連続の8強入り――。確かな成長を示す若人を導いたのは、2人の“仕事人”の存在だった。
炎天下の撮影中、主役の錦織圭より張り切ってみえる男がいた。3月、常夏のマイアミ。錦織の新たなスポンサーに決まった久光製薬のCM撮影中の1コマだ。錦織が股抜きショットや、エア・ケイを披露するとき、ボールを出す役目で駆り出されたのが、コーチを務めるアルゼンチン出身のダンテ・ボッティーニだった。錦織がコートを疾走し、追いつけるかギリギリのタイミングでの球出しを要求されたが、その時間と距離の間合いがちょうど良い。錦織と組んで、もう5シーズン目だから当然といえば、当然か。
休憩中、「ふだんの練習より、気分が乗って見えるけど?」とからかうと、「冗談だろ? ケイの練習でもいつも集中してるよ。今日はオフを駆り出されたんだ」。
人懐っこい笑顔で切り返してきた。
「のんきというか、お気楽に映る部分もあるけれど、サーブのフォームとか、技術的な修正も指摘してくれる」
これが、錦織のダンテ評だ。
ATPの公式サイトに、選手時代の足跡が残っている。世界ランクの最高位はシングルス827位、ダブルス380位。生涯獲得賞金は947ドル。錦織が今年の全仏終了時点で、984万ドルを稼いでいるのと比較すると、1万分の1にも満たない。ダンテは自身のテニス人生をこう振り返る。
「母国で国内の大会で勝つようになり、16歳でドイツに渡った。3、4年間、サテライトの大会を渡り歩いていたんだ」