“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J2新潟・早川史哉が復帰できたから
楽しめる「サッカーの難しさ」とは。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/02/11 08:00
白血病からの復帰プロセスは容易なものではないだろう。それでも早川史哉は希望を持ってサッカーボールを蹴っている。
予測がアジャストしないキツさ。
実際、インターセプトや1対1になった時の対応力、奪ってからの縦パスや、ポゼッションの際のパスの質は驚くほど良くなっている。
だが、ライナーのクロスが送り込まれたシーンでは、ボールを早く見切る中途半端なポジショニングだったり、戻るべき位置に戻れなかったり、ポジションが深すぎてビルドアップできなかったりと、組織の中でのエラーが散見された。
「ある程度動けるようにはなりました。今まではなかなかスプリントを出せなかったし、GPSで毎日測っていても最高スピードが出なかったけど、ここ最近は徐々に近い数字が出るようになった。寄せるスピードが上がって、自分のイメージと一致してきたんです。身体が動けるから、ボールを奪えるようになった。でも11対11で試合をすると、認知の部分が欠けていることを痛感しました。
今日の試合を振り返っても、軌道の予測がまだできていない。予測しているつもりだけど、それが現実とアジャストしない……。もしかすると、今まで病気になってから一番キツい時かもしれません。身体はこれまでで一番キツくないけど、心のダメージが大きい」
チームの中で自分が生きるか。
早川の最大の武器は広い視野と的確な状況判断と危機察知能力、洞察力だ。それをベースにポジショニングを取り、攻撃の起点となるパスを繰り出す。良質のアコーディオンのように自由自在に変化しながら、チームにとって心地よい音色を出していく選手だ。
だからこそ、早川史哉にとって「生命線」と言える壁を乗り越えないと、その先の世界はない。そう言っても過言ではないほど重要な段階だ。そのことを彼も十分に理解している。
「今の自分は『何も良さが出せていない、ただの選手』。最大のアピールポイントが出せないなら、選手として勝負できていない。言うならば『凡人』なんです。そこを戻せないと先には進めない」
だが、この壁までたどり着いたのは、彼にとって大きな前進を意味する。
これまでは体力、ボールへの感触、ステップやスピードを戻そうとしてきたが、今年に入ってからは“縦110m×横75mのフルコートの、11人対11人のうちの1人”としてどう力を発揮するかという段階に移行できた。
つまり、“自分を鍛える”部分から“チームの中において自分を鍛える”という相対的な部分に変化した。そのステージまでに行けたこと自体が凄いことで、ここから新たなレベルの挑戦に足を踏み入れている証拠だ。