月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
稀勢の里引退で各紙が繰り広げた、
「秘話合戦」から何が見えるか。
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byKyodo News
posted2019/02/01 08:00
1月17日、元横綱稀勢の里の荒磯親方は、あいさつ回りで両国国技館を訪れた。
全く笑わない男が笑った瞬間。
続いての番記者の秘話は「スポーツ報知」。
「16~17年担当」記者は、「全く笑わない男の笑顔」というタイトル。
『勝負の場では多くを語らず、取組後は最低限のことしか話さない。感情の起伏を表に出さない古風な力士像そのものだった。』
しかし、
《土俵を離れれば、プロレスをこよなく愛する。初優勝した17年初場所の前に突然、「(新日本の)ケニー・オメガの必殺技は?」と質問してきた。うろたえる私に「あーあ、答えられたら好きになったのに」と笑っていた。》
後日、勉強してきた記者が「片翼の天使」と必殺技名を答えた。
《すると、支度部屋ではまったく笑わない男が、腕を組んで満足そうに目を細めていた。時おり見せるあの笑顔が人間・萩原寛の魅力だった。》
稀勢の里のエピソードでありつつ、「新米担当がいかに取材対象に近づくか」という奮闘を追体験できる記事。読んでるこっちも思わず「目を細めて」しまう。
オフレコではブラックジョークも。
稀勢の里の冗舌と博識ぶりは先ほどの「ニッカン」のコラムにも書かれていた。
《相撲以外には冗舌だった。興味の幅は広く、エアロビクスやスカッシュ、セパタクローなどの大会をわざわざ録画する。武道も好み、合気道は習いにも行った。》
ほかの担当記者も、
《競馬、プロレス、総合格闘技、柔道なども好きで、私がヒクソン・グレイシーの本を手渡した時も、その場ですぐに読み始めた》(ニッカン '11、'12年担当)
《オフレコの場面では冗舌で、ブラックジョークも珍しくない。》(ニッカン '10~'13年担当)
と書く。