錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭の最終セットは「世界一」。
BIG4級の精神力を示す数字と歴史。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2019/01/18 12:30
2試合連続で難敵との接戦を切り抜けた錦織圭。フルセット神話は健在だ。
「(錦織は)とにかくおとなしかった」
そのときのチームメートのひとりだった岩渕聡は、一昨年の春からデ杯日本チームを率いる監督だ。
今大会も予選から視察に来ている43歳は、当時の錦織の様子をよく覚えているという。
「とにかくおとなしかったです。めちゃくちゃ緊張していて、ほんとにかわいそうでした。
周りはみんなかなり年上だし、なかなか打ち解けることもできないところで、いきなり頼られる立場ですから。
食事もとれていなかったし、眠れてもいなかったと思います。あれだけの才能で、ツアー優勝のあとでもあったので、もうちょっと強気な、生意気なくらいのところも出てきているのかと思っていましたけど、全然違いましたね。
試合に入ればスイッチが入るようなところは当時からありましたが、(苦手の)芝でしたし、ボコボコのコンディションということもあって、力が発揮できる状況じゃなかった。初めての5セットマッチで、最後は体力切れという印象でした。
『僕らが頼りなくてごめん』って、そんな気持ちでしたね。圭にとって一番タフなデ杯だったんじゃないでしょうか」
デビスカップでの異常なプレッシャー。
ジュニア時代からメンタルの強い選手だと言われていた。しかし、チーム戦のプレッシャー、エースのプレッシャーは別物だった。
責任感が強い分だけ苦しさは増す。このときから錦織は大変なものを背負う運命だったのだろう。デ杯ではデビュー戦黒星のあと白星を重ね、2011年にはシングルス2勝を上げて日本を27年ぶりのワールドグループ復帰へと導き、2014年には1回戦で単複3勝を挙げて当時のフォーマットでは日本初の8強入りも達成させた。
「デビスカップではツアーとは違うチーム戦の重みやプレッシャーがある。それを力に変えることも必要だけど、平常心でプレーすることを心がけている」と何度も語っていた。その中で、プレッシャーを感じず怖いもの知らずの性格が強みだった10代の頃から、強烈なプレッシャーの中で持ち堪え、打破していく大人の精神力に変化を遂げてきたように思う。