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琴奨菊は相撲史に残る貴重な存在。
大関陥落した力士の苦闘の歴史。 

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西尾克洋

西尾克洋Katsuhiro Nishio

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photograph byKyodo News

posted2019/01/12 10:00

琴奨菊は相撲史に残る貴重な存在。大関陥落した力士の苦闘の歴史。<Number Web> photograph by Kyodo News

現在の琴奨菊は、相撲の歴史に残るほどに希少な存在である。羨ましいほどの力士人生だ。

若いうちの大関陥落は希望あり。

 まず、若くして大関陥落した力士を見てみよう。

 ここに含まれるのは、24歳で陥落した大受、雅山、そしてデビューから約5年で陥落した出島もここに含まれる。彼らについては陥落後も強さを保ち、息の長い活躍をしたといえるだろう。大受は27歳で引退しているが、雅山はその後11年、出島は8年の長きにわたって現役を続行している。

 そして雅山と出島は、以降の現役のおよそ半分を横綱大関と対戦する地位で闘っている。出島は23場所、雅山に至っては41場所だ。大相撲のベスト16に名を連ね続けられるのはごく限られた力士だけだが、この2人はそれができたのである。

 彼らは大関昇進前と陥落後では、全く別の力士人生を歩んでいるといえるかもしれない。昇進前は大相撲の頂点をガムシャラに目指し、陥落後は大関への返り咲きを虎視眈々と狙う。陥落したことは不運だったかもしれないが、大関を経験したことによって太く長く土俵人生を送れるのだからわからないものである。

 25歳で陥落した照ノ富士は今場所三段目の下位まで番付を落としており、大変厳しい状況ではあるが先人の活躍を見ればまだまだ可能性は残されているといえるのではないだろうか。

元大関には時間の猶予がない。

 続いては、30歳近くでの陥落力士を見てみよう。

 この辺りの年齢で陥落する力士が最も多く、若羽黒、前乃山、魁傑、琴風、小錦、貴ノ浪、そして把瑠都がこれに当たるのだが、彼らに共通しているのは加齢や怪我によって復活に苦しんだことだ。

 魁傑、琴風、把瑠都に見られるように、陥落からおよそ1年で引退するケースもある。陥落後もなんとか続行を試みたが、元の状態に戻れないことから苦渋の決断を下すのだ。元大関という立場であまり地位を下げられないという事情から、彼らはコンディションを戻すための猶予が無い。

 かつての相撲が取れぬ中、それでも現役にこだわる彼らの姿はとても印象的だ。力は衰えていても、幕内を守るためになりふり構わぬ取り口を見せる姿はまた違う味わいがある。これに当たるのは若羽黒、小錦、貴ノ浪で、陥落からおよそ3年から4年相撲を取り続けている。

 特筆すべきは貴ノ浪だ。

 大関陥落後の現役23場所の中で、上位総当たりである前頭4枚目以上が16場所。これだけでも凄いのだが、三賞まで獲得している。下位の実力者が活躍してもなかなか三賞は獲得できないという事情がある中での受賞であり、この頑張りにはなおさら価値があると言えるだろう。

【次ページ】 30歳以上で陥落すると引退する力士が多い。

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