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ラグビー早慶戦、理詰めとアドリブ。
HCが学生たちにかけた最大の賛辞。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2018/12/27 07:30
古田京主将(左)は慶応ラグビー部史上初の医学部生。彼の性格もチームの性質に影響を与えているのだろう。
完全に研究されていた早稲田の攻撃。
実は11月23日の早慶戦、12月2日の早明戦では早稲田は一度もループを見せていない。準々決勝の後半になっていきなり多用するようになったのだ。この意図はどこにあったのか、アタックのタクトを振る岸岡に疑問をぶつけると、予想外の答えが返ってきた。
「前半で慶応のディフェンスが完璧に準備してきているのが分かりました。だとすると、『慶応にとって“初見”になるようなアタックを見せないとダメだ』と思ったんです」
初見、という言葉を使うあたり、数学科で学ぶ岸岡らしい言葉のチョイスだ。行き詰まりを打開するために岸岡が思いついたのがループだった。実はシーズン序盤のサインプレーのひとつとして準備はしていたものの、あまりうまくいかなかったという。
「その結果、早慶戦、早明戦ではループを使う場面がなくて、結果的に“封印”することになっていました。準々決勝の前にことさら練習をしたわけではなく、違ったことをやる意味で何度かサインを出したんです。丸尾を挟んだアタックも良かったですし、最後もループが絡んでのトライだったので、結果的に良かったかなと思っています」
岸岡の話を聞いて合点がいったことがある。
最後のトライにつながるループは、決して流麗なものではなかった。岸岡が中野からリターンパスをもらってから、一瞬、立ち止まっている。その微妙な時間のタメが相手ディフェンスの足を止める結果となり、トライに結びついた。
試合後半になり、半ば即興で繰り出した分、美しさはなかったものの、「たどたどしさ」がかえって準備力に秀でた慶応ディフェンスに穴を空けた。
シーズン終盤に入り、岸岡はゲームコントロールで大きな成長を遂げており、準決勝の明治戦も彼のパフォーマンスが勝敗に直結するだろう。
慶応戦ではキックモーションが大きいところを狙われ、チャージからのトライを許すなど弱点はあるが、久しぶりにスマートな早稲田の10番が見られるのはうれしい。
理詰めであることの強さと弱さ。
対する慶応にはかけるべき言葉が見つからない。
慶応の「早稲田対策」は満点に近かった。正確に分析がなされ、ゲームプランも思い通りのものだっただろう。スタッフは満点の仕事をしたはずで、だからこそ、岸岡にループを掘り起こさせたのだ。
今季の慶応が好ましいチームだったのは、理詰めで、生真面目さが際立っていたからだ。しっかりと準備したうえで、必死のパフォーマンスを見せる。
ただし理詰めである分、相手も準備しやすいという矛盾、強みを持つがゆえの裏返しの弱点がある。