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早明戦は日本ラグビーの「宝」だ。
伝統のスタイルを乗り越えて進め。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2018/12/04 16:30
早稲田と明治の激闘の結末は、赤黒軍団が8年ぶりの対抗戦優勝を果たすというドラマチックなものだった。
スクラムにこだわらずBKで。
特に印象的だったのは前半のトライ。早大陣深い場所でのスクラムで、明治は早稲田を粉砕、レフェリーが明治のアドバンテージを取っている状況だったが、FWがボールを拾って突進するのではなく、そこからBKに展開してトライを奪った。
早稲田の泣きどころであるスクラムにこだわることなく、有利な状況を作ってからBKで仕留めたのだ。これがサントリー出身の田中澄憲監督の志向するラグビーだろう。
試合後の記者会見でも、
「後半見せたようなアタックを大学選手権でやっていきたいと思います」
と話した。
この発言から何が見えるか。
仮想敵を帝京に置いている。
今季の明治にとって、シーズン当初からの「仮想敵」を早稲田ではなく、帝京に置いてきたことがうかがえる(早大ファンからすると、ちょっとさびしい)。
強いFWを前面に立てながらも、決してこだわりすぎることなく、俊足揃いのBKを縦横無尽に走らせる。これが理想形なのだろう。
このラグビーを実現するには、主将のSH福田健太の判断が重要になる。
その福田が後半10分、早稲田ゴール前で得た反則でスクラムを選択したのは、いかにも明治らしかった。彼は会見の受け答えも丁寧でおとなしい印象を受けるが、この時ばかりは明治の遺伝子を感じた。
しかし、このスクラムに限って明治のプロップが膝をつく反則を取られてしまったのは、皮肉としか言いようがない。
大学選手権に向けて、「ハイブリッド志向」と、スクラム、モールにこだわる「明治の遺伝子」がどう折り合いをつけるのか、注目に値する。