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パラ卓球で8連覇の吉田信一選手と
球を打ち合い、松岡修造が驚いた! 

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松岡修造

松岡修造Shuzo Matsuoka

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photograph byYuki Suenaga

posted2018/12/03 07:00

パラ卓球で8連覇の吉田信一選手と球を打ち合い、松岡修造が驚いた!<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

吉田選手は14度も日本一になっている車椅子卓球のレジェンド。トレードマークの金髪は、自分で染めているという。

吉田選手の不思議なグリップ。

 松岡さん、あ然とした様子で、しばらく言葉を発することができない。確かに、吉田さんのボールに反応する機敏な動きからは、「胸から下が動かない状態にある」とはとても思えないのだ。

 と、松岡さんの視線が、卓球台の上に置かれた吉田さんのラケットに注がれた。グリップ部分には、通常のグリップの上に2カ所、不思議なテーピングが巻かれている。

松岡「あれ? このグリップは何ですか」

吉田「このテーピングはラケットのグリップ止めです。テニスでもグリップテープを巻いた最後に付けますよね」

松岡「いえいえ、こんなの見たことがないですよ」

吉田「自分は手がカサカサで、汗をあまりかかないんです。これも障害の1つなんですけど。障害が重い階級になると、右半身しか汗をかかない、なんて人もいたり。僕は神経の関係で手に汗をかかないので、手が湿ってこない。だからこのテーピングでグリップ力を増しているんです」

松岡「車椅子も特殊な作りをしているんですか?」

吉田「車椅子卓球競技で使用する車椅子の『定義』たるものは無いのですが、一応卓球競技用として、自分は高さやステップの位置、背もたれの角度などを重要視しています。自分の体をこの車椅子で支えている、という感覚です。右手はラケットを振りますよね。で、左手は車椅子が動かないようにずっと車輪を掴んで、動きの調整をする、そこが力の起点になるので、ここ(左手の中指と薬指の第二関節から指の付け根や手のひらの小指側)にすごくタコができちゃう。だから自然と握力は左の方が右よりも強くなります」

 松岡さんは、吉田さんと松岡さんのやりとりをじっと聞いていた小川コーチに質問を投げかけた。

松岡「小川さんは、なぜコーチをしようと思ったんですか」

小川「最初は吉田の練習相手がいないということで、私がやるようになりました。私、もとはここ(多摩障害者スポーツセンター)の職員だったんです。ただ、私はずっとバレーボールをやってきた人間で……」

松岡「ぜんぜん違うじゃないですか! 確かに今は車椅子に座っておられますけど、背が高く見えます」

小川「卓球は選手同士で練習をすると、1時間を2人で分け合うから練習時間が実質的には30分になってしまう。だったら私が相手になれば、その1時間をもっと有効に使える、と思ったんです」

松岡「吉田さん、なぜ少しでも卓球経験がある方に頼まなかったんですか?」

吉田「経験者には健常者卓球のクセがついていて、ミドルのボールを立っているイメージで振っちゃうんです。それはあくまで腰が使える人がやることで、自分たちにはなじまないし、試合で受けるような球筋にならない。だから、私たちができる動きを彼女には求めています。車椅子に座って相手してもらうのもそのためです」

松岡「なぜバレーボールに打ち込んできた彼女を指名したんですか」

小川「あの……私、こう見えても不得意なスポーツがなくて、わりとそつなくできるんです(笑)。やってみれば、と言われて、車椅子に乗るのも楽しいかなって感覚でした」

松岡「何年前のことですか」

小川「10年くらい前」

松岡「10年! その間、ずっとコーチなんですか」

小川「最初はコーチというか、練習相手として」

松岡「そりゃそうですよ。だって素人なんですから、最初はまともに打つこともできませんよね」

吉田「でも、今はもうぜんぜん自分はかなわないですよ」

松岡「ええっ? 吉田さんがかなわない?」

吉田「それはやっぱり腰が使えるから。腕の届く範囲も広いんです。でも、彼女がうまくなるのは練習にはとてもよいことです(笑)」

【次ページ】 小川コーチとの出会いとこれまで。

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