小川コーチとの出会いとこれまで。

　プロスポーツの世界で、自分より経験の少ない人が練習パートナーになることはあっても、コーチにまでなることはほとんどない。驚きの連続だ。

松岡「それにしても……。吉田さんは、彼女の何を信じたんですか。だって、バレー経験者だけど、卓球は素人ですよ？　強くなろうと思ったら、その分野のすごいコーチを探してきた方が早いじゃないですか。戦略とかすべて見られる方の方が」

吉田「フフフ（笑）。バレーボールって、手首を使うでしょう？　彼女は手首も柔らかいし、運動に関して人と違う視点を持っている。僕の相手をしてもらったら強くなれるかなって思ったんです。そこはもう、インスピレーションです」

松岡「知らないことばかりだ……。どうですか小川コーチ、実際に一緒に取り組んでいて、楽しいですか？」

小川「楽しいですね。実は、練習相手を務めるようになる前のことですが、センターで見かけたときに『私が相手をしましょうか』と持ちかけたことがあったんです。でもその時は『下手な人とはやりたくない』と断られたんです」

松岡「えーっ？」

小川「そんなことがあったのに、今度は吉田から声をかけられてのスタートだったんです。前に言われたことを当然覚えてましたから、だったらその印象を変えてやるってやる気が出て（笑）。いつか彼に勝てたら……というのを目標にしてきたんですけど、いつの間にかそれよりも、色んな大会で彼が結果を残して、一歩一歩上がっていくのを見るのが嬉しくて。今はマネージャー的なこともしますし、練習パートナーもコーチも、全部します」

松岡「そこまでのめり込んだ、というか、吉田さんの練習相手を務めていく中で、自分の人生が変わっていったんですね。小川コーチにとって、吉田さんとの取り組みは、何が一番魅力ですか？」

小川「時間はかかりましたけど、彼が日本代表になって、海外遠征にも行くようになり、次の壁がどんどん出てきて、その壁の先に今があるところ、でしょうか。壁を1つひとつ乗り越えていくのが、なんだか面白くて」

松岡「あ！　それ僕がよく使う言葉でいえば、崖っぷちだ。小川さん、好きなんですか、崖っぷち？」

小川「そうですね。吉田も私も、つねに崖っぷちだと思います（笑）」

松岡「いいですね！　リオパラリンピックは一緒に行かれたんですか」

小川「私は個人コーチなので、リオには行けませんでした。彼には協会の方が随行して。それでも彼が行ければ良いですし、試合が見られなくても、結果がすべてなので。勝ってくれたら嬉しいんです」

松岡「どうして、そんな風に思えるんだろう……」

小川「吉田は、つねに自由で、やりたいことはやりたいし、頑張るところはとことん頑張るんです。なんだか……そんな人に初めて出会ったというか。普通は、頑張ろうとしても、少し手を抜きたくなることとか、あるじゃないですか。それがまったくなくて、やりたいと思ったら自分がどんなに大変でも、体が痛くてもやりたいし、全部を卓球に注ぎたい、という人なんです」

松岡「そうなんですね……。小川コーチ、1つお願いです。ちょっとその車椅子、お借りしてもいいですか？」

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