スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
伝統の早慶戦で観たラグビーの妙。
“指示無視”の選手がいてもいい。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2018/11/27 07:00
慶応を下して1敗を守った早稲田。次週の早明戦は、ともに久々の対抗戦優勝を懸ける決戦となる。
慶応の分析、学習能力の高さ。
このシーン、慶応の金沢篤ヘッドコーチはこう振り返った。
「フェイズを重ねたアタックで、慶応は全員が右サイドにいる状況でした。そしてターンオーバーが起きた時に、左サイドには誰もいない状態で。夏合宿でも同じようなトライを取られていたのですが……」
アタックの観点からは、右サイドに人員を集中投下し突破を図るのは正しい。しかし、ボールを失った時の切り替えまではなかなか準備できない。
ただし、金沢HCの立場からすれば、予期できない状況ではあるにせよ、過去に同じシチュエーションから失策を犯した経験を、早慶戦という大一番で生かせなかったことに悔しさがにじんでいた。
慶応は明治戦での勝利でも証明したが、分析、学習能力が高く、真面目で、好感の持てるチームである。
ターンオーバーからのトライを献上した場面では、15人が同じ発想で動いていたからこそ、ピッチの右サイドに全員が集まっていた。論理上はすべて、正しい。
局面の停滞で異分子はいるか。
Jスポーツの解説を担当していた慶応の卒業生の野澤武史氏が、この攻防が終わると面白いことを言っていた。
「慶応はみんなが全員、その戦術に乗っている(筆者注・全員が同じ戦術を理解し、同じように動いているといった意味)と思うので、早稲田からすると止めやすい。こういうときは、3人くらい指示を聞いていない人間がいた方がいい」
ラグビーのコーチたちからよく聞く言葉だ。トライを取る場面では、えてしてコーチの指示を無視して、感覚で動く選手が状況を打開することがままあるのだ。局面が停滞しているときに、ひとりでも「異分子」が登場すれば、苦労していたのがウソのようにラインをブレイクできることがある。
このシーンだけを取ってみても、今季の慶応は真面目さが最大の強みでありながら、弱点にもなっていることが透けて見える。