プロ野球亭日乗BACK NUMBER
勝利至上主義と大人達の都合……。
筒香嘉智が子供達のため立ち上がる!
posted2018/11/22 17:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Yasushi Washida
今年の高校野球界は大阪桐蔭高校(大阪)の春夏連覇の一方で、夏の大会で準優勝した金足農業高校(秋田)の躍進が話題を独占した年でもあった。
秋田の片田舎の公立農業高校が、吉田輝星投手を軸に予想を覆す快進撃を見せた。高校野球ファン、野球ファンのみならず日本中が、この青春ドラマのようなストーリーに沸き立ったのは記憶に新しいと思う。
その一方で金足農業の快進撃は高校野球が抱える、1つの大きな矛盾を投げかけるものだったことも、決して忘れてはならない事実であった。
それは勝利至上主義の中で、いかに選手を守るのかということだ。
高校野球は地方予選の1回戦から1つ、また1つと敗れた学校が消えていく。淘汰に淘汰を重ねて、甲子園球場で行われる本大会に出場しても、そこでまたたった1試合、敗れれば次の戦いに進む権利は失われる。そうして最後まで負けなかったチームが全国優勝という栄冠を手にするわけだ。
そのシステムが生み出す価値観こそ、負けることが許されない、勝つことしか価値がないという「勝利至上主義」である。
勝利を取るか? 選手の未来を取るか?
その淘汰のゲームを生き残るため、金足農業もエースである吉田投手はひたすら投げ続けた。
甲子園の本大会だけで881球。
秋田予選から通算すると実に1517球を投げ抜いた。
その球数は“ミラクル金農”が、勝ち続けるためには必然だったのかもしれない。しかしその一方で、金足農業が勝ち進むにつれて、吉田投手の異常とも言える投球数がクローズアップされていったのも事実である。
勝つために酷使される選手の健康問題は、今夏の異常気象による熱中症の問題とともに、教育の名の下に行われる高校野球が抱える矛盾を、改めて世の中の人々が認識するきっかけにもなった。