プロ野球亭日乗BACK NUMBER
勝利至上主義と大人達の都合……。
筒香嘉智が子供達のため立ち上がる!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byYasushi Washida
posted2018/11/22 17:00
海外で目撃した子供達の自由な練習・試合風景が、筒香の野球観を大きく変えたという。
一番の問題は子ども達の「親」。
実はこの保護者が抱えている問題、表立って出てくることこそ少ないが、野球のみならず子ども達のスポーツの世界では相当に厄介なものだという声をよく聞く。
子ども以上に親が入れ込み、必死になってしまう――例えば少年野球や高校野球でも、選手以上に親が躍起になって勝つことを追い求めてしまうケースが多いというのだ。
親が自らの夢を子どもに託し、「これだけ応援しているんだから頑張ってレギュラーになれ」と猛練習を強いる。試合になれば勝利を追い求め、「ミスをするな」「負けるな」と子どもを追い込み、またミスをした選手を親を含めた周囲が一斉に攻撃するというようなケースも少なくないという。その結果、子ども達は無理をすること、結果を出すことを自然に望んでしまうようになる。
それが結果的には、子ども達を肉体的にも精神的にも追い込んでしまうことに繋がっている――という現実があるのだ。
スポーツ各界から改革の声が!
発表会後に行われたパネルディスカッションには筒香の出身チームで、筒香自身が小学生チームのスーパーバイザーを務めている野球チーム「堺ビッグボーイズ」の瀬野竜之介代表や、ロンドン五輪後に女子選手へのパワハラが発覚し、その後組織全体での体質改善に取り組んでいる全日本柔道連盟の野瀬清喜常務理事、株式会社アシックスの松下直樹取締役、教育法、スポーツ法などの研究をする鹿屋体育大学の森克己教授が出席して、それぞれの現場からの声が届けられた。
森教授からは、スポーツの児童保護制度に先進的に取り組むイギリスの「チャイルド・プロテクション」という制度が紹介されている。
そこでは指導者に対する様々なハラスメントの規定や罰則だけでなく、保護者へのガイドラインもしっかりと定められていることなども紹介された。
最終的に子ども達を守れるのは保護者であるが、その保護者にどういう意識でスポーツと向き合ってもらうのか――その視点も今後の大きな問題であると指摘していることが、今回の「子どもの権利とスポーツの原則」の大きな柱になると説明された。
筒香「子ども達の未来をサポートしたい」
「大切なことは目の前の結果や大人側の自己満足ではなく、子ども達の未来が主体であることだと感じています」
筒香もビデオメッセージでこう親を含めた大人たちの役割の大切さを説く。
「自身においてはトレーニングやウインターリーグ出場で訪れたアメリカやドミニカ共和国で子ども達の積極プレー、そしてそのチャレンジを暖かく見守る大人の方から学ぶものがたくさんありました。自身も日本でそのような子ども達の未来をサポートできる環境を実施できればと思い、2年前から出身チームである堺ビッグボーイズ小学部でスーパーバイザーとしても活動を行なっています」
今年の1月にはスーパーバイザーを務める堺ビッグボーイズの小学生部「チーム・アグレシーボ」の体験会後に、改めて日本の野球界のあり方に対して改善すべき部分が多くあると、問題提起の発言を行った筒香。
このオフには満を持して、自らの野球人生を通して感じた少年野球のあり方、子ども達の将来を切り開くための提言を綴った自著『空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ』(11月30日発売/文藝春秋)も上梓される。
「子ども達の未来のために自分自身ができることを、寄与できればと思っていますので今後ともよろしくお願いいたします」
メッセージをこう締めくくった言葉は、地味だが、筒香の決意表明でもあった。
文藝春秋BOOKS
川淵三郎氏(一般社団法人日本トップリーグ連携機構会長)推薦! 「筒香選手の意見を取り上げれば、もっと多くの子供たちが野球を楽しめる!」
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