“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
それでもA代表に必要な杉岡大暉。
湘南で磨かれる驚異の攻撃力とは。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/11/10 08:00
その頑強な身体とテクニックで、恐るべき推進力を誇る杉岡大暉のドリブル。
「思い切りの良さ」を考え違い!?
彼はフィジカルの強さと身体の軸のバランスが良く、ドリブルで仕掛けた時に身体で壁を作りながら、ボールを運ぶことができる。彼が作る強力な壁によって寄せに行ったDFがブロックされ、正確な左足のボールコントロールでそのまま突破を許してしまう。武器である強烈な左足のシュートも、壁を作った状態で振り抜くことができる。
決して華麗なフェイントやずば抜けたスピードがある訳ではない。だが、彼には重戦車のようにボールを前に運んでいくパワーがあるのだ。
ウィングバックになってからもこの才能を発揮していたが、一方で、彼自身がその武器を信じ切れていなかった。
「僕の思い切りの良さを周りの人は褒めてくれるのですが、何か『思い切りの良さは俺の武器なんかじゃない』と思ってしまっていたんです」
彼のドリブルはれっきとした才能なのだが、それを「思い切りの良さ」という抽象的な言葉で表現してしまう故に、「偶発的なもの」と感じてしまっていたようだ。そんな思考は、彼の謙虚な性格にも起因するのだが、とはいえ他人から言われる「自分の良さ」を素直に認めるまでには少し時間がかかったようだ。
「考えすぎていた部分があった。ちょっと突破できなくなると、そこからボールを失わないことばかり考えてしまっていた。それでは自分の良さが消えてしまう」
成功しなくてもいいから、仕掛ける!
その自分の強みに、ようやく彼は気付くことができたのだ。
きっかけはルヴァンカップ準決勝の柏レイソルとのファーストレグの直前だった。チームのスポーツダイレクターを務める坂本紘司に、「今は安定を求めるな。成功しなくてもいいから、仕掛けていくことをやめるな」とアドバイスをもらった。
「どんどん前に仕掛ける意識が向上して、ドリブルやクロスの感覚がどんどん良くなっていくのを感じた。今はもう前向きに、自信を持ってプレーできています」
ルヴァンカップ準決勝での躍動、そして決勝戦での決勝弾とMVP。
ミドルレンジで左足から放たれた弾丸ライナーは、彼の抱えていた葛藤をすべて吹き飛ばした一撃だった。