マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
無名の高校生が4年でドラフト1位に。
成功体験の少なさをメリットにする。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYuki Suenaga
posted2018/11/12 07:30
高校卒業時点や大学卒業時点の能力と、本来の潜在能力が同じとは限らない。選手のピークは個人によるのだ。
「やっと人にもなれてきたかな」
「やっと“人”にもなれてきたかなぁ……」
心作りには、もっと手間ひまかけてきたという。
「調子の良し悪しなんて、相手にはわからないんですよ、普通にしてれば。それを、肩回したり、ヒジを振ったり、自分の弱みをわざわざ相手に見せたりしている。それは同時に、私に対する言いわけでもあるわけなんで……打たれた時のためのね」
座禅を組む機会を与えたりもしたという。
「“座像(ざぞう)”を見れば性格もわかるらしいですよ。一発で言い当てられてましたから、坊さんに」
正村監督を支える甲子園への負けじ魂。
プロに行けるヤツ。そう見込んだ“逸材”だったから、指導もそれに見合った厳しさが伴った。
「いざとなったら、1人で25人相手にしなくちゃならないわけですよ、エースっていうのは」
正村監督自身、現役時代、社会人・NTT東京のサウスポーとして、熾烈な都市対抗の予選と本戦を投げ抜いてきた記憶がある。
「普段の生活でも、その意識で生活すること。プロなら、野球は生活の一部になるんですから」
口がすっぱくなるほど繰り返し言ってきたという。
「僕自身、甲子園には出られませんでしたから、『甲子園がなんぼのもんじゃい!』っていう負けじ魂が自分を支えてた部分、ありましたよね、学生時代(東海大)は」
甲子園は“魔物”。そんな気もしているという。
「高校からすばらしい環境があって、そこで活躍して周囲に持ち上げられて、甲子園っていう達成感や一種の安堵感もあって……そこからもう一度ネジ巻き直して、大学野球でもう一丁っていうのもなかなかたいへんなのかもしれないですね、もしかしたら」