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無名の高校生が4年でドラフト1位に。
成功体験の少なさをメリットにする。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYuki Suenaga
posted2018/11/12 07:30
高校卒業時点や大学卒業時点の能力と、本来の潜在能力が同じとは限らない。選手のピークは個人によるのだ。
成功体験の少なさがチャレンジを導く。
2016年のドラフトで広島から1位指名を受けた慶應義塾大・加藤拓也投手。
林助監督は4年生の1年間、加藤投手の成長に立ち会った。
「トレーニングが大好きで、スピードもぐんぐん上がってる時で、そういう時期だからこそ、さらに万全なエースになるために“配球”に関心を持ってほしくて」
その時期、明治大には、投球術にたけた柳裕也(現・中日)がエースとして君臨していた。
「柳は、相手の狙いを外しながらカーブを使ったり、カットボールを挟んだり……ウチの郡司(裕也・捕手・仙台育英)が3ボールからカットで打ち取られたりしてましたから。加藤の場合は、不利なカウントだと真っすぐだったんですが、147、8(キロ)の真っすぐも打ちにくいですけど、3球に1球は打たれることもある。そこでスライダーが投げられれば2割で済む。そのあたりを教えながら」
ピッチングという仕事を“因数分解”してみせた。
「澤村(拓一・現巨人)は外野の控えだった。藤岡(貴裕・現日本ハム)はライト、東洋大の3人も在野の存在だった。成功体験が少なかったぶん、本人も新しいチャレンジをすることに、それほど抵抗なく挑める。それはあると思いますね」
八戸学院大もドラフト上位の常連。
今年のドラフト1位で高橋優貴投手を巨人に送り出す八戸学院大・正村公弘監督は、コーチ時代も含めると、川島亮('03年ヤクルト自由枠)、石川賢('03年中日3位)、青山浩二('05年楽天3位)、塩見貴洋('10年楽天1位)……いずれもドラフト上位でプロ野球に送り出してきた。
「高橋の場合は、まず左投げだってこと、8シーズンすべて登板して大きな故障がなかったこと、あとは、強いボールが投げられるってこと。それが1位だった理由じゃないですか」
いつものそっけない感じで、話を切り出してくれた。
「高橋は自分でコツコツ練習できる選手ですけど、メンタルがすごく不安定なところがありました。なので、人としてどうあるべきなのか……そこのところと、一方でフォームの修正。まず、その2つを時間をかけてやれたことが大きかったと思いますよ」
もともとテークバックの大きかった投球フォーム。にもかかわらず、140キロ台の強い速球を投げられた高橋優貴。珍しいタイプだったと、正村監督は言う。
「首を振って投げるようなところもあって、球道が暴れる。それを、後ろを小さく、前を大きく。それを時間をかけて、少しずつ、少しずつ」
踏み込んだ左の股関節に体重を乗せて、前でボールをさばく感覚。
ようやくできてきたと言う。