“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
U-20W杯を確定させ次はACL決勝へ。
平常心で勝利を呼び込む安部裕葵。
posted2018/10/31 17:30
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
AFLO
AFC U-19選手権において、やはりこの背番号10の存在感は別格だった。
安部裕葵は圧倒的な技術を背景にした表面的な活躍だけでなく、「ゲームの流れを見る思考力」「平常心を保つ精神力」でもずば抜けていた。
そもそも万全のコンディションでこの大会に挑んだ訳ではなかった。所属する鹿島アントラーズでの連戦の影響により、代表チーム合流当初のコンディションは良いとは言えなかった。だからこそ、U-19チームの指揮官・影山雅永監督は彼のコンディション回復に細心の注意を持って取り組んだ。フィジカルトレーナーやコーチ達からなる“チーム影山”が、練習強度の調整を徹底して安部に施すことで、徐々にそのコンディションは向上していった。
もともと安部は、その卓越した技術以外に、年齢に似合わずしっかりとした「考え」の持ち主でもあった。
瀬戸内高校(広島)時代から自分の性格を非常に客観的に把握しており、当時から、どうすればプロのサッカー選手としての将来を切り開けるのか、常に考えていた。
その粘り強い思考は試合中でも途切れることがなく、自らどう動けば良いか、どう試合を作っていけば良いかを考え続けられる選手だった。
その才能は、鹿島という勝利にこだわるクラブに入ったことで、より磨かれていったようだ。
ピッチ上では絶対に平常心を。
「たとえ試合がうまくいかない展開でも動揺してはいけない。でも、もしかしたらピッチ上にそういう(動揺した)選手が出てくるかもしれないので、それに気づいてカバーできるくらいの選手にならないといけない。
そのためには自分自身がピッチ上で平常心を保ち続けることが重要で、僕は敢えて何も考えないようにしているんです……試合前も、試合中も、試合後も。
僕の考えでは、ある程度先の状況を想像してしまうと、結果としてそれ以上なのか以下なのかを評価する物差しを心の中に作ってしまうことになる。そうすると、自分の理想と現実の結果を比較する時に、どうしてもメンタルの乱れが生じると思っているんです。
もちろん試合前に『相手はこうしてくるだろう』とか、ある程度プレーの情報を入れることは大事ですが、試合が始まったら予測はあまりしないようにする。
それでも試合中、状況が厳しくなって、ふと考えてしまったり、立ち止まったりしてしまったら……また一度それをリセットして、何も考えないようにする。常に『無』になれるようにしているんです」(安部)