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メルテザッカーの引退試合に思う
ドイツ代表の苦戦と問題の根本。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byUniphoto press
posted2018/10/21 08:00
ドイツ代表、アーセナルなどで活躍したメルテザッカー。彼の引退はドイツの一時代の終わりを象徴する。
メルテザッカーが抱えた苦悩。
メルテザッカーさんはかつて、ビッグクラブや世界的なトップシーンで活躍することの苦しさを包み隠さず述べたことがありました。
「サッカービジネスで求められるのは楽しむことではなく、無条件で最大のパフォーマンスを発揮すること。たとえ選手がケガをしていたとしても、それは常に求められる」
激烈なプレッシャーに晒されていた当時、メルテザッカーさんは試合前に嘔吐したり、下痢の症状に苛まれたりしたことがあったそうです。そして自らがベンチに回されたり、メンバーから外されたりした際に安堵したとも語っています。
何年にも渡り精神的に追い込まれる状況に立たされていれば、たとえ強靭な肉体を有し、数々の経験を積んだ者であっても辟易としてしまいます。ひとえに彼らも僕たちと同じ、ひとりの人間なのですから。
バイエルンの現状も一因か。
ドイツ代表の低調は、今季ブンデスリーガで苦戦している“常勝”バイエルンの状況にも繋がる気がします。多額の報酬を得ているのだから当然と指弾する前に、彼らがどんな境遇に置かれ、どんな責務を負いながら日々を生きているのか、そこに思いを馳せることができれば、問題が解決する道筋を生む可能性もあるのではないでしょうか。
2018年10月16日、ドイツ・フランクフルト市内の行きつけのバーはフランスに負けたドイツの戦いを見終わった人たちがフッとため息をつくものだから、くぐもった生暖かい空気が充満していました。だけどバーのドアを開けて外へ出れば、上空には煌めくような北極星が瞬いていて、そこには静謐で新鮮な空気が漂っていました。
役割を変える。見方を変える。心を整える。頭を切り替える。人生もサッカーも1つのファクターだけでは捉えられない、崇高で意義深いものであることを理解する必要があるのかもしれません。