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ナポリが強い。打倒ユーベにかける
美食家アンチェロッティのレシピ。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2018/10/18 08:00
首位を走るユーベとは勝点6の差だが、アンチェロッティのナポリは昨季よりも進化を遂げた感がある。
かつての代名詞4-4-2で戦う。
現在、セリエAでは4-3-3か3-5-2とその亜流が全盛だが、9年ぶりに母国で指揮を執るナポリの指揮官は自身が駆け出し指導者だった1990年代に好んで使っていた4-4-2をリバイバルさせた。
もちろんその頃とはゲームのスピードも実践の理論も段違いであることは承知の上で、選手1人ひとりの特長とフィジカル・コンディションに折り合いをつけながらの決断だった。
新守護神オスピナのパフォーマンス安定が急がれる中、導入の主な目的は守備フェーズにかかる時間とスペースに十分な余裕を持たせること。そのためにMFジーリンスキとFWカジェホンは2列目の左右両サイドにポジションを移し、MFアランはセンターハーフに起用された。
攻撃が手薄になった分、FWインシーニェをゴール前でよりフィニッシュに直結するプレーに専念させることが重要な得点源となった。
新境地を得た小兵エースは、フィオレンティーナ戦終盤の決勝ゴールを皮切りに爆発。以降の国内外7試合で6ゴールを上げ、見事指揮官の期待に応えている。
憎っくき相手はやはりユーベ。
頑なに先発を崩さなかった前任者とちがい、忍耐強い指揮官は、MFログのような昨季までの控え組にもチャンスを与え、FWベルディやMFファビアン・ルイスといった新獲得戦力にも発奮を促す。全員がスタメンであるという意識を植え付けたのだ。
「私が監督を引き受けた理由はクラブの将来プランとファンの熱にあるが、何より戦力が整っていたことが大きかった。今は選手全員が同じレベルで高い士気とともにプレーできている。先発選びに迷うよ。ナポリに来てよかった」(アンチェロッティ)
ナポリをリセットするのに必要だったのは、前任者にあった苛烈な性格ではなく、アンチェロッティの鷹揚な精神だった。
ただ、その温厚な指揮官をもってしても、その名を聞けばこめかみに血管が浮くクラブがある。ちょうど不惑になった1999年から2年指揮を執った古巣ユーベだ。
1999-2000シーズンは最終節でラツィオに、翌シーズンはローマにスクデットの夢を砕かれ、シーズン終了と同時に石もって追われた。そのときに受けた屈辱は宿怨となって、今も勝負師アンチェロッティの原点として染み付いている。