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ナポリが強い。打倒ユーベにかける
美食家アンチェロッティのレシピ。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2018/10/18 08:00
首位を走るユーベとは勝点6の差だが、アンチェロッティのナポリは昨季よりも進化を遂げた感がある。
前任者サッリが迎えた限界。
咥えタバコとジャージ姿で親分肌のサッリは、滅多に笑わなかった。荒い言葉遣いで選手たちを叱咤しながらつねにギリギリの戦いを好み、ナポリをアンチ・ユーベの一番手に鍛え上げた。
サッリが残した社会的影響力は大きく、90年近い歴史を持ちイタリアで最も高名なトレッカーニ社の百科事典が現代新用語として「サッリズモ(サッリ主義)」という名詞を採用するに至ったほどだ。
だが、濃厚な蜜月が終わりを告げ、サッリが去ったチームに伸び代はもう残されていなかった。
かつてナポリとユーベ双方で指揮を執った名将リッピの指摘は冷淡そのものだ。
「サッリはターンオーバーをあえてしなかった。彼が求めていたのは(限定された11人の)プレーが完全にシンクロすることで、それは確かに成功を収めた。だが、完璧になりすぎたがために、ナポリは些細な変化すら受け入れられなくなった」
精緻だが柔軟性を失ったチームではタイトルは獲れん、と言わんばかりのリッピは「アンチェロッティはちがう。彼こそ真のトップクラスの監督だ」と断じた。
「人の良いおデブさん」
曰く、プレーヤーとしても指導者としても彼ほどさまざまな条件でハイレベルの勝者の経験を積んだ者はいない。アンチェロッティは己の目で現実を見て、問題に対峙し、障害を乗り越えてきた。さらにまだ59歳で脂がのっている、と。
アンチェロッティは選手と口論をしない。
ロッカールームでの会話を漏らすこともない。
ミランの元主将マルディーニは、親愛を込めて元指揮官を「人の良いおデブさん」と呼ぶ。幾多の修羅場をともにくぐり抜けた伝説のDFは、敬愛するビール腹の親父に底知れない凄みと経験があることを知っている。
今季が開幕して3節目のサンプドリア戦で、チームは0-3の完敗を喫した。ここが転機と読んだアンチェロッティは、続く4節フィオレンティーナ戦から新戦術4-4-2導入に踏み切った。