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トルシエがベトナムの育成世代指導。
沸騰する東南アジアのサッカー熱。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byShuichi Tamura
posted2018/10/11 07:00
2017年にオープンしたPVFアカデミーの施設前でのフィリップ・トルシエ。育成特化型の特別な施設で、世界でも最先端の設備が揃う。
Jヴィレッジに優るとも劣らない施設。
――Jヴィレッジに優るとも劣らないこの施設を見ていると、これから発展していこうとする熱気がひしひしと感じられます。
「サッカーへの本物の情熱がここにはある。街中にもサッカーに対する熱気と本物のサポーターが溢れている。イングランドの影響を受けた確かなサッカー文化で、プレミアリーグは絶大な人気を誇り、選手たちは広く名前を知られている」
――躍進の条件は整っているのですね。
「ただ、2022年ワールドカップ出場は、目標として少し高いように思われる。しかし2024年のパリ五輪や出場国が48カ国に拡大される2026年ワールドカップについては、ベトナムにも大きな可能性がある。ワールドカップでベトナム国歌を聞く日もそう遠くはないだろう。
ロシアワールドカップのパナマがそうであったように、それはベトナム国民の夢でもある。ベトナムには野心を実現する手段がある。そのための投資を行っているし、国全体の強い意志を私は感じている」
――PVFについてもう少し具体的に説明してください。
「“Promotion fund of Vietnamese football talents”の略で、所有しているのはビン・グループだ。彼らはこの施設の建設のために4000万ドル(約45億円)を投下した。年間の運営費は1100万ドル(約13億円)だ。またライアン・ギグスとポール・スコールズとも契約した。ふたりはプロモーションのために年に2~3回訪れることになっている」
――宿泊している子供の数はおよそ200人でいいのですか?
「10歳から18歳まで、それぞれの年代で20人ちょっとが活動している。加えて13人の外国人を含むおよそ40人の専門スタッフが働いている」
――今の最優先課題は何でしょうか?
「環境を整えることだ。子供たちはここに宿泊し、ここから学校に通う。大事なのは優先順位をつけることで、たとえば10~14歳の子供は学校や教育を優先すべきだ。もちろんサッカーも大事だが、教育や人格形成をそれによって損なってはならない。サッカーに関しては目標を限定すべきだ。
逆に15~17歳は、プロになることを前提として選考される世代だ。
サッカー面で重要な時期で、人間教育よりもテクニカルなプログラムに特化される。様々な大会に参加し、チームとして活動する。代表との結びつきも強くなる。とりわけ15歳の子供たちは、2024年五輪と2026年ワールドカップの主力になる世代だ。
加えて私自身のメソッドがある。グローバルかつ指導的なメソッドだ。プレーに多くのディシプリンを求め、私のこれまでの経験に基づいた哲学は、とりわけ戦術面において特徴がある。コミュニケーションやフラットなディフェンス、プレッシング……。それらのディテールをベースにした哲学を、すべてのカテゴリーに浸透させたい」