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錦織圭とジョコビッチの差は、
「正気」と「狂気」のスイッチ。
text by
吉谷剛Tsuyoshi Yoshitani
photograph byHiromasa Mano
posted2018/09/11 11:30
天敵ジョコビッチにまたしても敗れた錦織圭。それでも全米ベスト4にまで実力が戻ってきたことも事実だ。
サーブを打った相手の左側を狙う。
ジョコビッチはリターンで構える際に他の選手よりも脚幅を広く構え、サーブを打った相手の左側(右利きならバック側)に多く返球しているデータがあるとのこと。
デュース側から第1サーブに対するリターンでは55%を、第2サーブでは59%を左側に。アド側からはさらにその数字は高まり、第1サーブでは67%、第2サーブでは77%が相手左側への返球となっていることが指摘されていた。
右利きの選手のバック側を狙って打つことで、「サーバーの優位性を崩すこと」に主眼を置いているというのがコバクス氏の主張で、ジョコビッチはその後に続くラリーで自分が支配権を持つことに力を注いでいる。
「ケイの速さに対処する必要が」
このデータを錦織の準決勝の一部で検証してみた。
ブレークを許した第1セットの第2ゲームと第2セットの第5ゲームで、3球目の錦織のショットの割合を見てみた。すると、前者では錦織が3球目をバックで返したのが5回、フォアでは3回。後者ではバックでの対応が4回、フォアが3回だった。特に後者では5本あった第2サーブのうち4本が次をバックで処理させられていた。少ないサンプルだが、コバクス氏のデータは錦織戦でも共通していた。
ジョコビッチは準決勝後に日本のエースの攻略法を雄弁に語った。
「ケイの動きはとても速く、相手から時間を奪う。彼のショットの速さに対処する必要があるし、ブレークチャンスをものにできたら彼は落ち着きを失い、ミスが出始めるようになる。そして、そうなった」
リターンの方向は、将棋で言えば序盤の攻防でどこの歩を最初に動かすか、ということ。戦術面では小さいものが、その後に続くラリー戦の終盤で大きな違いとなる。それが生まれそうな時、ジョコビッチは一瞬で「狂気」のスイッチを入れ、刃をむき出しにして、次々と厳しい一手を打って詰みに入る。