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稀勢の里の完全復活は実現するか。
希望と絶望、相反する双方のデータ。
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2018/09/08 11:30
稽古の勝敗数すら報道されるほど、稀勢の里の注目度は段違いだ。文字通り進退がかかり、今場所は見逃せない。
力士の年齢に関する常識は激変している!
では、稀勢の里に明るい材料は無いのだろうか。奇跡という名の楽観論を信じることしかできないのだろうか。
私は、そうとも限らないと考えている。
それは、加齢による衰えのデータを近年の力士たちが破り続けているからだ。
白鵬は優勝回数、通算勝利数を筆頭にあらゆる記録という記録を33歳の今も更新し続けている。白鵬の凄さは、2012年に一度成績が下降していることだ。横綱は、成績が下がるとどうしても周囲がうるさくなる。
しかし白鵬はこの頃から相撲のスタイルを変え、後の先をとる相撲ではなく張り差しやカチ上げといった過去の横綱が選ばなかった自己改革に挑み、結果を出したということである。好き嫌いがわかれる相撲ではあるが、複数のスタイルで傑出した成績を残し続けたことは特筆に値すると思う。
そして、琴奨菊を見てみよう。
大関から陥落した力士は、そのまま引退するか小錦や霧島のように中位から下位で相撲を取り続けることが多かった。雅山や出島のように、昇進も陥落も早かった力士は少し事情が異なるが、加齢で大関を守れなくなった力士が上位で相撲を取り続けるのは難しいことだ。
だが琴奨菊は大関陥落後、実に1年半もの間上位総当たりの位置で闘い続けている。32歳での大関陥落にその後の苦戦を予想する者も多かったが、その予想をいい意味で裏切ったわけだ。陥落後にこれほどのレベルを維持した力士は、過去に貴ノ浪くらいしか存在しない。
40歳を超えて幕内だった旭天鵬の存在。
ここからは様々な例を挙げてみよう。
数年前に旭天鵬が史上最高齢で幕内総合優勝したことは、多くの人々を驚かせた。その後さらに彼が人々を驚かせたのは、40歳を超えてからも幕内で相撲を取り続けたことだった。
力士は普通30歳を超えると肉体の衰えが素人目にも分かるのだが、旭天鵬は20代の頃とそう変わらなかった。もしかするとこれが一番凄いことだったのかもしれない。
嘉風の大関挑戦も異例のことだ。30代半ばまでは典型的なエレベーター力士だった彼が、横綱大関を相手に健闘を重ね、三役に定着するなどと誰が想像しただろうか。
しかもそのスタイルは安定感のある四つではなく、突き押しだった。そのスタイルで結果を残し、大関挑戦を口にする彼を馬鹿にするものはいなかった。