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稀勢の里の完全復活は実現するか。
希望と絶望、相反する双方のデータ。
posted2018/09/08 11:30
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph by
Kyodo News
稀勢の里が、遂に出場する。
2017年3月場所。12連勝からの大怪我。なす術なく敗れた14日目。誰もが優勝を諦めたところから、本割でまさかの変化。優勝決定戦では土俵際での小手投げ。思い出しただけで胸と目頭が熱くなる、正に「魂の48時間」だった。
だがあの時狂喜していた自分にこう教えたらどう思うだろうか? 稀勢の里はこの後8場所連続休場するのだ、と。
稀勢の里は左を制することで相手を崩す。相手の崩れ方に応じてそのまま突き進んでも良いし、右上手を取ることで動きを封じ、確実に勝つことを選択しても良い。
稀勢の里に左を使わせないために、力士たちは対策を講じる。だがその多くはリスクを伴うものだ。攻めに特化すれば前のめりになり、自滅する。攻め込まれても、結果的に星を拾うというのはつまりそういうことである。傍目には危なく見えるかもしれない。だがこれは、稀勢の里が絶対的強者だからこその勝利だったのだ。
左が使えず、肉体的にも崩れかけていた。
しかし、左が使えない稀勢の里はもがき苦しんだ。あれほど休場しなかった力士が、出場と休場を繰り返す。左で優位に立てない稀勢の里に怖さはない。誰もが大胆に攻め立てる。勝負勘が戻っていない稀勢の里は、偶発的に形勢が逆転したり相手が自滅するケースでしか勝利することが出来ない。
横綱の責任感から来るものだったのか、真意は本人のみ知るところではあるが、左が使えなくても稀勢の里は出場することを選んだ。だが、相撲は戻らない。昨年9月に全休を選んだが、それでも成績は上がらない。
左が使えないどころか、鍛え上げた肉体までもが崩れかけていた。劣勢の取組であっさり土俵を割ることも多くなった。もはや稀勢の里不調の要因は、伝家の宝刀を失ったことだけではなくなっていたのである。
最初は復活を信じていたが、ここまでの8場所で稀勢の里の苦境を目の当たりにして、そう簡単には明るい未来を期待しづらいところまで来ている。
では、稀勢の里は復活できないのだろうか。