濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アイスリボン取締役にして現役王者、
藤本つかさが語る「女性とプロレス」。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2018/08/22 10:30
自身が普段使っているデスクの前の藤本つかさ。団体運営と選手の二役を見事にこなす。
藤本自身も、リングで涙を見せることが。
「控室で泣いてる選手がいると“中(会場)で泣きな!”って言うんですよ。お客さんに見てもらいなさいって」とも。
普通なら人に見せるべきではないとされるネガティブな感情も、プロレスでは観客と共有されるべきだし、それがこの世界での“表現”になる。
藤本自身も、リングで涙を見せることがある。
特に忘れられないのは2011年3月21日、つまり東日本大震災直後の後楽園大会だ。「こんな時期にプロレスやってる場合か」という声も聞こえながら、初めてのメインでタイトル防衛を果たした藤本自身が東北出身だった。藤本は試合後「今日来てくれたみなさん、見に来てくれたお父さんお母さん、生きていてくれてありがとう」と泣いた。
「ただ、若い選手だとプロ意識より人としての感情が上回っちゃうこともあるんです。相手のことを本当に嫌いになると“試合したくない”“話したくもない”になってしまうので(苦笑)。だからこそ闘わせると面白くなったりもするんですけど」
試合前の舌戦にヒヤッとすることもある。観客が静まり返ってしまうことも、アイスリボンでは珍しくない。
新人のジュリアは、8.26横浜文体で対戦する朝陽を「(事務所での)洗い物だってちゃんとやらないし。何回あんたのゴミ捨てたと思ってんのよ!」と睨みつけた。“リング上の言葉”としては異様だが、だからこそリアルだ。溢れて止まらない選手たちの感情と言葉を、藤本はあえて「野放しにしてます」。
団体の成長は間口の広さから。
もちろんそれは、選手代表としての舞台裏でのケアもあってのことだろう。
藤本によると、アイスリボンはリングアナの千春、レフェリーのMIOと選手経験者の女性スタッフがいることも心強いという。やはり同性にしかできない相談、同性にしか分からない心の機微というものもある。
「(佐藤肇)社長にも“女子の考え方はこうなんです”って説明する時があります。それを理解してくれる社長なので、私としてはやりやすい」