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水球女子代表問題とは何だったのか。
大本監督がSNSで伝えたかった本意。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAFLO
posted2018/08/20 08:00
アジア大会を戦う水球日本女子代表。今回の問題が強化に影響を及ぼさないことを願う。
「世界のスタンダードを変える」
そして、衝撃だったことはもう1つある。ある国際大会中、大本はこう言ったのだ。
「(水球の)世界のスタンダードを変えるつもりでやってるんで」
そのような大それたことを、まだ五輪でメダルも獲ったこともない国の人間が言うことが驚きだったし、痛快でもあった。
水中の格闘技と称される水球は、接触プレーが当たり前のように繰り返される。水中で起きていることは審判も判断できないため、誤解を恐れずに言えば、水の中なら「何でもあり」だ。
水中で肘鉄を食らって、肋骨が折れるなどということも珍しくはない。格闘技は厳格なルールの上に成り立っていることを考えると、水球は格闘技以上に無秩序とも言える。
体格で劣る日本人は、それでもそのスタンダードに挑み続け、敗れ続けてきた。それを変革しようとしたのが大本だった。
相手が守備陣形を整える前に攻め込むカウンター攻撃なら、肉体的接触を避けられる。「体格」に「スピード」と「技」で対抗しようとしたのだ。
大本は海外メディアの取材を受けるたびに、つたない英語でこう発信した。水球は「ボールゲーム」であり、「ノー・レスリング」だと。
頻発するファウルが普及を阻害?
大本がフェアプレーを訴え続けている理由は2つある。1つは競技の発展のため。そして、もう1つは、その方が日本に有利だからだ。
水球は日本だけでなく世界においてもマイナースポーツだ。頻発するファウルが普及を阻害しているというのが大本の論だが、それは一理ある。
女子の場合、水着の面積が男子よりも大きいため、ルールで禁止されているにもかかわらずつかみ合いが頻発する。胸が露わになることさえある。
大本は、ことあるたびにこう話していた。
「女子の水球を見て、娘に水球をやらせたいと思う親なんているわけがない」
だからこそ、日本男子の「脱接触」型のプレースタイルは、世界の水球界に一石を投じたのだ。FINA(国際水泳連盟)でも日本代表の戦いぶりは、評価されていた。日本が目指す方向性は、世界の水球関係者にとっても歓迎すべきものでもあるのだ。