ロシアW杯PRESSBACK NUMBER
フランス代表の黄金時代、始まる――。
クロアチアに勝った“ディテール”とは?
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2018/07/16 11:30
近年稀に見るエキサイティングな決勝戦だった。と同時に、決勝戦の勝敗にまでVARが大きく影響した、歴史的な試合ともなった。
“ディテール”を徹底的に詰めてきたフランス。
線の太さはディティールに表れる。
18分にフランスがあげた先制点は、右サイドからの直接FKを起点とする。アントワン・グリーズマンの絶妙なクロスが、マリオ・マンジュキッチのオウンゴールを誘った。
フランスは決勝トーナメントの3試合すべてでセットプレーから得点を奪っており、クロアチアはセットプレーの対応に不安を抱えていた。
ディティールを詰めてきたフランスと、詰め切れなかったクロアチアの違いが、決勝戦を動かしたのだ。
1対1となったあとの38分には、ビデオ・アシスタント・レフェリーでフランスがPKを獲得し、グリーズマンが冷静にネットを揺らした。
これもまた、偶然の果実ではない。
右CKの対応でクロアチアが見せた小さなスキを、フランスが突いたと言っていい。
ディティールを突き詰めただけではない。フランスはスペシャルな「個」も擁していた。キリアン・ムバッペである。
戦術的な細かい詰めが、勝利を必然にした。
59分、ポール・ポグバの球足の長いタテパスから、背番号10が右サイドを切り崩す。ゴール前へのクロスはグリーズマンを経由し、ポグバがゴール左へ流し込んだ。
振り返れば1点目の直接FKも、ムバッペが右サイド深くに侵入したことを足掛かりとする。イバン・ペリシッチのハンドによる2点目のPKも、GKユーゴ・ロリスのロングキックにムバッペが反応したことによる右CKがきっかけだ。
65分にはムバッペ自身がゴールネットを揺らす。
左サイドバックのルーカス・ヘルナンデスからパスを受け、ペナルティエリア外からゴール左へ高速弾を突き刺したのだ。
4対1とした直後の69分、守護神ロリスの軽率なボール処理からマンジュキッチに押し込まれるが、フランスは試合の主導権を譲らない。決勝トーナメント1回戦から3試合連続で延長戦を戦ってきたクロアチアが次第に消耗を隠せなくなるなかで、指揮官デシャンの選手交代がチームを安定させていった。
過去6試合フル出場のエンゴロ・カンテを55分でベンチへ下げ、197センチの長身スティーブン・エンゾンジを送り込んだのは、クロアチアが終盤に仕掛けてきた力ずくの攻めへの手当となった。
W杯では'98年の準決勝以来となるカードは、20年前に続いてフランスが勝利した。
当時のキャプテンだったデシャンは選手と監督としてW杯を制したことになり、マリオ・ザガロ(ブラジル)とフランツ・ベッケンバウアー(ドイツ)に肩を並べたのだった。