野球善哉BACK NUMBER
野茂や大谷が切り開いた道の先へ。
16歳で渡米する結城海斗に幸あれ。
posted2018/07/12 11:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
野球界の新しい発展の扉が開かれようとしている。
カンザスシティ・ロイヤルズが16歳の日本人、結城海斗選手とマイナー契約を結んだ。16歳の日本人プレイヤーが日本のプロ野球球団どころか、甲子園を目指すこともなくメジャーリーグの球団と契約を交わしたというニュースには驚くほかない。
結城選手が成功するのかどうかはスカウトでもない筆者には見当もつかないが、彼の勇気ある決断に感じるのは、かつてのパイオニアが果たしてきた「限界への挑戦」だ。“前例なき戦い”といった方がいいかもしれない。
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1995年、近鉄バファローズに所属していた野茂英雄が球団から任意引退する形でメジャーリーグへ挑戦した。前例がないことを嫌う日本の世論の中に、背中を押す人はほとんどいなかったが、野茂がメジャーリーグで華々しくデビューし、同年のオールスターに選ばれると、日本中は大騒ぎになった。
日本国内の人気は世界での活躍に影響される。
メジャーリーグへの挑戦自体が猛反発されたはずの野茂の勇姿は、日本人の自尊心を大いに刺激し、自信と誇りをもたらした。そして、日本人でもメジャーリーグで戦えるというマインドを植え付けた。
のちに、佐々木主浩(マリナーズ)、イチロー(マリナーズなど)ら日本球界を代表する選手たちが次々とメジャーへ渡った。佐々木はもちろん、イチローが数々の金字塔を打ち立てるなど、メジャーの舞台で日本野球の力を見せつけた影響は計り知れない。
「日本国内で人気があるスポーツかどうかは、世界の舞台や国際大会で活躍している選手がいるかどうか。野球ではメジャーになりますけど、他の競技もオリンピックで勝ったり、ヨーロッパのリーグで活躍したりしている競技は人気がある」
元千葉ロッテの捕手・里崎智也さんはそう分析する。
野茂やイチローの活躍に刺激を受け、さらには自身も第1回WBCで優勝を果たした時には「世界の舞台で勝つ」ことの意義を驚くほど痛感したという。
1995年当時の日本の野球界は、'93年に産声を上げたJリーグ人気に押されていたが、野茂が前例を打ち破る活躍を見せたことで、活気を取り戻したのだった。