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「危機感はない」発言は多分正しい。
川口能活の記憶と、西野流の原点。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byNaoki Nakanishi/JMPA
posted2018/06/19 07:00
2010年の川口能活はサプライズでの招集だったが、その効果も岡田監督は計算していたのだろう。
「危機感がある」と発言したほうが良かったのか?
果たして、14日のカメルーン戦で日本は勝利をつかむ。テストマッチで確固たる自信をつかめていなかったチームは、ここから一気に機能性を高めていったのだった。
ロシアW杯前最後のテストマッチとなったパラグアイ戦を前に、西野朗監督の「危機感はまったくない」との発言が取り沙汰された。選手たちの認識との間に乖離がある、といった報道もあった。
ならば、ガーナとスイスに連敗した結果を受けて、「危機感がある」と発言をしたほうが良かったのか?
そうではないだろう。
監督の言動に、選手は敏感に反応する。「選手ってそういうものなんですよ」と、川口も話す。
5月21日のトレーニングキャンプ初日から、西野監督はネガティブな発言を一度もしていない。選手のコンディションを気にかける言葉はあっても、チームの仕上がりに対する不安や不満をこぼすことはないのだ。
チームを取り巻く、肌を焼くような空気。
63歳の指揮官の胸中では、'96年のアトランタ五輪が重みを増しているのかもしれない。
28年ぶりの五輪出場を果たした彼のチームは、メディアの過熱報道にかき回されていく。開幕から3年が経過したJリーグを再び勢い付けるブースターとして、さらには五輪開幕前に決定した日韓ワールドカップのプロローグのような位置づけとして、アトランタ五輪のチームはメディアから過剰な期待を背負わされた。落ち着いた環境で五輪を迎えることは許されなかった。
ロシアW杯のグループリーグ初戦が迫り、日本のスタメンが注目を集めている。ここにきて非公開練習というカーテンが引かれているだけに、メディアによる憶測が飛び交うのは避けられない。チームを取り巻く空気は、ここから一気に肌を焼くようなものとなっていく。
それだけに、監督の立ち居振る舞いは重要だ。西野監督が発するひと言で、ちょっとした表情で、チームの雰囲気は良くも悪くもなる。