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トルコ系ドイツ人のギュンドガン。
自国サポのブーイングと“寛容性”。 

text by

島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byGetty Images

posted2018/06/15 10:30

トルコ系ドイツ人のギュンドガン。自国サポのブーイングと“寛容性”。<Number Web> photograph by Getty Images

思わぬ形でブーイングを受けたギュンドガン(右)。エジルとともにドイツ連覇へのキーマンであることは間違いないが……。

寛容なドイツ人ばかりなのだけど。

 表敬訪問した際に撮られた写真が公開されたことで、強権的姿勢のために反対派も多い同大統領の政治的なプロパガンダに利用されたと批判が高まり、ギュンドガンとエジルに厳しい視線が注がれてしまったのです(エジルはサウジアラビア戦を負傷欠場したので、ブーイングの対象にはなりませんでした)。

 サッカー選手が試合中にブーイングを浴びることはあります。しかし、その大半は相手チームをサポートする側からで、味方であるべき側から非難の意を受けることはそれほどありません。

 僕の知るドイツ人は寛容な人ばかりです。特に僕が住むフランクフルトは国際色が強く、こちらがドイツ語に窮していると、英語で話しかけて相互理解に努めてくれます。初めてドイツに降り立った日、電車の券売機で購入方法が分からず途方に暮れていたら、初老の男性がわざわざ遠くから駆け寄ってきて代わりに切符を購入してくれました。

 その男性は僕が電車に乗り遅れるかもとホームまで連れて行ってくれ、柔和な笑顔で手を振って僕を見送ってくれました。ドイツ人の知人に聞くと「ドイツ人は基本的に人に親切な振る舞いをするのが大好きなんだよ」とか。その実感は日を追う毎に高まっていて、その居心地の良さに感銘を受けてもいます。

移民者の模範だから「裏切られた」?

 これはあくまでも私見ですが、今回のギュンドガンに対する反応は、彼に対する愛情の裏返しかもしれません。積極的に移民を受け入れ、公的な保障が手厚いドイツの政策には賛否両論あるのですが、少なくとも一般のドイツ国民は他民族、他国籍の方々に対して粗暴な態度は取りません。

 例えば、長年ドイツに住みながらもドイツ語習得に苦労している移民に対して、補助金を給付するといった制度もあります。ドイツで不自由なく生活してほしい。そんな慈愛に満ちた親切心が垣間見られるのです。

 しかもギュンドガンの場合はドイツで誕生して、教育を受け、プロサッカー選手にまで行き着いた、移民者の模範とされる人物です。だからこそ、ワールドカップを前にして、ギュンドガン(とエジル)が様々な物議を醸すトルコの大統領とわざわざ面会したことに、「裏切られた」と感じたのかも知れません。

【次ページ】 「僕は常に批判に対してオープン」

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