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ナダル、世代交代を阻み全仏V11。
聖地への愛と絆とフランス語。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2018/06/13 08:00
ローランギャロスで優勝カップを受け取ったナダル。11度目の今回はかみしめるような喜びの表情を見せ、観客も称えた。
「ラファの初優勝を11歳の時に見ていた」
6-4、6-3、6-2のスコアに、あの攻防のすさまじさ、美しさは表れていない。敗れた挑戦者は表彰式のスピーチで小さなエピソードを披露した。
「11歳だった僕は、ラファの初優勝をテレビの前のソファに座って見ていました」
その言葉で、ナダルが王者でいる年月の長さを知る。初優勝というのは2005年、ナダルが19歳になったばかりのときだった。あれから13年の間にラファの髪は短くなり、ウェアのショーツも短くなり、風貌も年相応に変化した。
しかし、もっとも能動的な変化は、いつのまにかナダルがオンコート・インタビューや優勝スピーチでフランス語をペラペラしゃべるようになっていることではないだろうか。途中で苦しくなって「ごめんなさい、英語にします」と切り替えることもあるが、フランス語で何を言っているか理解できなくても年々上達していることくらいはわかる。
“赤土の帝王”の終焉が叫ばれたが。
語学には、始める決意とモチベーション、さらには続ける気力とやはりモチベーションが必要だ。レストランで英語のメニューをもらわずに注文したい、くらいの軽いモチベーションではマスターできるはずもなく、私事ながら20年近く毎年この時期にパリに来ていても、いまだにお目当てのバターひとつ満足に手に入れることができない。
スペイン語とフランス語の場合は同じラテン語から派生した言語とはいえ、自然にここまで習得できるものではないだろう。
ナダルが片言のフランス語を抜け出して、急速に上達していたのは昨年だったように思う。前年は左手首のケガで3回戦前に棄権を強いられ、その前の年は準々決勝でノバク・ジョコビッチに敗れていた。
ランキングを10位まで落としてグランドスラム・タイトルがとれなくなったナダルは、最後の砦であるこのフレンチ・オープンでも2年連続して優勝どころかベスト4にも届かず、全仏V9でついに“クレーコート・キング”ナダルの時代も終焉と評されていた頃だ。