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エッフェル塔の下にクレーコートが出現。
「未来のエース」が繰り広げた熱い戦い。
posted2018/06/15 11:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
ALEXIS REAU/ SIPA/ LONGINES
エッフェル塔の嫌いな者はエッフェル塔へ行け――。パリでエッフェル塔の見えない唯一の場所はエッフェル塔の中だという皮肉めいた言い習わしだ。パリ市内のどこからでも見えるシンボリックな鉄の塔は130年近くもの間変わらずそこに聳えている。
パリの人々にとっては当たり前の存在だが、風薫る初夏の数日間、この季節らしいパリのもう一つのシンボルがそこでドラマチックに融合し、非日常的な光景を繰り広げていた。
時はフレンチ・オープンの真っ最中。クレーコートテニスの最高峰ローランギャロスからも見えるエッフェル塔の真下に、同じ赤土のコートが敷かれ、世界各国から集まった13歳未満の将来有望な選手たちが戦っていた。
フレンチ・オープンのオフィシャルパートナーとタイムキーパーを務める『ロンジン』の主催で、今年9回目を迎える『ロンジン フューチャーテニスエーストーナメント』だ。
今年は、同ブランドのアンバサダーを務めるシュテファニー・グラフとアンドレ・アガシ夫妻の就任10周年の記念大会でもあり、昨年まで1年ごとに男女交代で開催されていたものが男女の同時開催にスケールアップ。エッフェル塔の特設コートだけでは間に合わず、ほかに2カ所のテニスクラブも利用し、男女それぞれ20カ国の代表が3日間に渡って頂点を競い合い、純粋な友好を深めた。
参加国は、フランス、スペイン、スイス、イタリア、ポーランド、ロシア、アメリカ、オーストラリア、中国、香港、日本、メキシコ、シンガポール、台湾、韓国、タイ、インド。そのうちシンガポール、香港、メキシコは男女ともにトップ100の選手を擁していない。
しかし、テニスはたった一人のスター選手がその国のテニス事情をがらりと変えることのできるスポーツだ。この舞台までたどり着いた13歳未満の子供たちのレベルや体格を見れば、いわゆるテニス後進の国々にも彼らを育てる土壌がたとえわずかでも存在することがうかがえる。10年先のテニスの世界地図の多彩な広がりを想像するのは楽しく、まさにそれこそが主催者の願いでもあるはずだ。