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ティーム相手に全仏4回戦敗退も、
心折れない錦織圭に見た完全復活。
posted2018/06/04 11:20
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
テニスというゲームの難しさは、常にベターなプレーが求められるところにある。どんなにいいプレーをしても、相手にそれ以上のプレーをされたら勝てない。ずっといいプレーをしていても、大事な場面で相手のプレーが少し上回れば、これも相手の勝ちである。
場面場面で少しずつ相手が上回れば、積もり積もって大差のスコアになることもある。それが、第1、第2セットのドミニク・ティームと錦織圭のパワーバランスだった。
序盤の錦織のプレーが特別悪かったとは思わない。ただ、ティームが極めてよかった。トップスピンのかかったストロークが深く食い込み、錦織に少しずつ無理をさせた。驚くのは、最初の2セットでアンフォーストエラーが9本しかなかったこと、そして、ファーストサーブ時のポイント獲得率が100%だったことだ。
この試合の1つのカギはサーブとリターンでの攻防にあると思われたが、この点に限っては両者の差が明確だった。
これほど隙のないプレーをされたら、いくら錦織でも持ちこたえられない。
「重い、高いボールに雑な入り方をした」
また、錦織自身、小さな違和感を持ちながらの2セットだった。
「足が動いていなかったので、彼の重い、高いボールに雑な入り方をしていた。それが彼にいいペースを持たせ、自分のミスも多かった」
試合後の錦織の反省だ。少々、足の運びがルーズになっても、彼の調整力をもってすれば、大抵のボールは押さえ込める。しかし、ティームのショットはそうではない。185cmの体を生かして目一杯、腕を振る。特にバックハンドは腕の振りがしなやかで、十分に回転のかかった重いボールが打てる。
レッドクレーのサーフェスで、このトップスピンは最も威力を発揮する。赤土を蹴るようにボールが跳ねるのだ。これが「重い、高いボール」だ。
これを自分のストライクゾーンで捕らえるには、素早く精密なフットワークが要求される。その“足”が、この試合の錦織にはなかったというだけの話。凡百の選手の言う「足が動かなかった」とは中味が違う。