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大谷シフトに、1回限定の先発投手。
メジャーは野球の常識を常に疑う。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2018/06/02 11:00
メジャーでは守備シフトの常識に対する挑戦が常に進行している。野球という競技は進化しているのだ。
現カブス監督が始めた常識破り。
その過程で重要な役割を果たしたのが、ジョー・マドン監督(現カブス)だ。マドン監督はレイズ時代の2009年、レッドソックスの「ビッグ・パピ」ことデイビッド・オルティスが打席に立つと、二塁手と遊撃手が一、二塁間の浅い外野を守り、中堅手は右中間、左翼手も中堅よりやや右寄りに守り、オルティスにとっての「反対方向」には三塁手だけを配置する「極端な守備シフト」を敷いた。
当時のレイズはアンドリュー・フリードマンGM(現ドジャース編成本部長)を中心に、膨大なデータを基に選手の起用法や戦術を立案することで知られており、それを積極的に使ったのがマドン監督だった。
マドン監督は当時から4番打者を「出塁率が高いから」という理由で1番に抜擢するなど、球界きっての「策士」として知られていた。一方、当時のレッドソックスにはセイバーメトリクス(野球の統計分析学)の教祖ビル・ジェームズがセオ・エプスタインGM(当時。現カブス編成本部長)らのアドバイザーとして働いており、オルティスへの「極端な守備シフト」に即効性がなかったことで「シフトは打球がゴロの場合しか効果がない」と笑い飛ばした。
実用化の国、アメリカ。
だが、他球団がレイズにならって「オルティス・シフト」を敷くようになると、オルティスの打率は3分前後も低下したため、フリードマンとマドン監督の決断が正しかったと証明された。
レイズとジェームズの考え方の相違は、「走攻守三拍子揃っている選手と、四球を選ぶ能力が優れた選手のどちらがチームの得点力を向上させるのか?」といったひと昔前の議論ではなかった。
フリードマンGMやマドン監督はジェームズ同様、「伝統的な野球観」からの脱却を果たした上で、現場レベルで「急進的な野球観」を「いかに実用化するのか?」という一点に絞っていたのだ。