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インテルもラツィオも泣いた最終節。
16年前に似たドラマのような死闘。
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph byGetty Images
posted2018/05/23 11:00
CLを巡る争いで明暗分かれたインテルとラツィオ。両クラブの復調はセリエAファンにとっては心打たれるものだ。
試合終了の瞬間、デフライは泣いていた。
そのPKで同点とされたラツィオは直後の79分、セナド・ルリッチが2枚目のイエローカードで退場を命じられる。流れは大きく変わり、81分にはCKからのベシーノのヘディングでインテルに勝ち越された。決勝点を奪われた瞬間のデフライは空中戦に強いミラン・シュクリニアルをファーサイドでケアしていて、ベシーノが飛び込んだニアサイドからは離れていた。
ひとり少ない10人でも攻めなければ5位に陥落するラツィオのインザーギ監督は84分、FWのナニをピッチに送り出す。交代を命じられたのがデフライだった。全力疾走でナニと入れ替わる地点まで戻ったデフライは、スピードを緩めると、うつむきながらベンチに戻った。
94分、試合終了を告げる笛が鳴る。デフライは泣いていた。涙を拭ったウエアで顔を覆い、表情を隠したまま、ベンチから動けなかった。
デフライの問題がチームの平穏を乱していたのか?
試合後、そう問われたラツィオのキャプテン、ルリッチは悔しさをにじませながら、こう絞り出している。
「チームメイト全員の模範となるプロフェッショナルだった。最後の瞬間まで戦い抜いていた」
インテリスタも涙した死闘への賞賛。
そんなデフライを非難する声は、聞こえてこない。両チームが死力を尽くしていたのは、見れば分かる。ラツィオではステファン・ラドゥが、インテルではミランダが足を痙攣させていた。
涙を流していたのは、デフライだけではない。スタンドではラツィアーレも、インテリスタも泣いていた。死闘と呼べる戦いの果てにあるのは賞賛だ。結果とはまた別の次元の賞賛。ラツィアーレの涙はただ悔しさだけでなく、敢闘への誇らしさにも誘われたものではなかったか。
筋書きがないスポーツのドラマにも“伏線”はある。伏線が遠くにあればあるほどドラマの深みは増し、まさかのシナリオがいっそう心を打つのではないだろうか。
「5・20」も未来のドラマの伏線となり得る。デフライの涙がラツィアーレの大きな喜びとともに美しい記憶へと昇華する。そんな日がいつか訪れてもおかしくない。