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イチローと彼が戦った投手たち。
「研究者」だけが秘密を解ける? 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2018/05/12 17:00

イチローと彼が戦った投手たち。「研究者」だけが秘密を解ける?<Number Web> photograph by AFLO

会長付特別補佐という役職の就任も、人とは全く異なる道だ。イチローの研究の旅は続いていく。

マダックス、ジョンソン、クレメンス……。

 対戦数のハードルを下げると、当然ながら歴史的大投手の名前も見受けられる。

 グレッグ・マダックスとは6打数4安打と相性がよかった。ランディ・ジョンソンも18打数8安打3三振と打ち込んでいる。ただしこれには、当たった時期も関係してくる。マダックスは、'90年代前半にピークをつけたあと、'07年まで高水準を維持したが、21世紀初めのイチローは怖い者なしの打者だった。イチローより10歳年長のジョンソンも、超絶的な猛威を振るったのは'02年あたりまでだったことは記憶にとどめておく必要がある。もちろんそのことで、イチローの価値が下がるわけではない。あの横手投げ左腕の剛球をよくぞ打ち返すことができたものだ。

 彼ら以外では、ロジャー・クレメンスやペドロ・マルティネスとの対戦が眼につく。前者とは、16打数4安打4四球2三振と五分以上の戦いだったが、後者に対しては、19打数4安打1四球2三振と、やや押され気味だった印象がある。球史に残る速球とチェンジアップのコンビネーションは、イチローといえども容易には打ち崩せなかったのだろう。

最大の天敵は7分4厘のKロッド。

 一方、苦手としてきた投手には意外な名前が散見される。

 最大の天敵は、Kロッドことフランシスコ・ロドリゲス(27打数2安打、5三振)だろう。打率にすると、7分4厘。C・J・ウィルソン(46打数9安打12三振)、ティム・ハドソン(56打数12安打4三振)、スコット・シールズ(36打数8安打14三振)、ダン・ヘイレン(70打数16安打6三振)あたりにも手を焼いたが、ハドソンとは長年にわたって好敵手の関係を保っていた印象が強い。

 それよりも奇異な感じを覚えるのは、ジェレミー・ヘリクソン(27打数4安打)、クリス・ティルマン(24打数4安打)、ラモン・オルティース(39打数8安打)、チャド・ゴーダン(29打数6安打)らを苦にしていたことだ。失礼ながら、このなかに図抜けた投手はいない。

 ヘリクソンやティルマンは2010年前後のデビューだから、彼らの興隆期とイチローの下降期がぶつかったと見ることはできる。先ほどのマダックスやジョンソンのケースの裏返しだ。ただ、イチローと同い年のオルティースや、「ときどき好投するジャーニーマン」だったゴーダンに関しては、思わず首をかしげてしまう。相性が悪かったのか、食べ合わせのようなものか、と凡庸な推理しか述べられないのは歯がゆいが、イチロー自身は、はっきりとした理由を知っているのだろうか。

【次ページ】 研究者を極められるのはイチローだけなのでは。

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