スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
イチローと彼が戦った投手たち。
「研究者」だけが秘密を解ける?
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byAFLO
posted2018/05/12 17:00
会長付特別補佐という役職の就任も、人とは全く異なる道だ。イチローの研究の旅は続いていく。
18年かけて1000人以上の投手と対戦。
その間には、10年連続200本安打という偉業や、5年連続リーグ最多安打が含まれる。'01年のMVPと新人王の同時受賞、'04年に記録した262本の史上最多単年安打、2度の首位打者など、その栄光を数え上げれば際限がない。テレンス・ロングを三塁で刺したレイザービームこと「ザ・スロウ」や、オールスターMVPを引き寄せたランニング・ホームランも忘れることはできない。だがもうひとつ、見落としたくない事実がある。
イチローは足かけ18年間で10728回も打席に立ち、3089本の安打を記録し、通算で3割1分1厘の打率を残した。1万打席以上の打者としては史上17位の打率だが、彼はその間、1000人を超える投手と対峙してきた。5回以上対戦した投手も約500人いる。
最初に対戦した投手がティム・ハドソン。最初に三振を喫した投手もハドソン。最初にヒットを打った相手は、救援のT.J.マシューズ。最初の内野安打はジム・メシーアから奪ったバントヒット。デビュー戦のイチローは、5打数2安打1得点の数字を残した。
その後、17年と1カ月――。
イチローが対戦してきた投手の一覧(Roto Wire.com)を眺めると、この間に流れた厖大な時間と戦いの空間が、少しずつ蘇ってくる。1度でも対戦した投手は1000人を超えるが、なかには繰り返し対戦した投手もずいぶん含まれている。
オールスター級の名前がぞろぞろと。
たとえば彼は、ジョン・ラッキーと129回も勝負している。結果は122打数37安打16三振7四球。打率3割3厘は、まずイチローの勝利だろう。
打ち込んできた投手は、ほかにも多い。
20打席以上の勝負に限定しても、アーロン・シーリー(6割3分2厘)、ギル・メッシュ(6割1分1厘)、ビセンテ・パディーヤ(5割)、ウェイド・デイヴィス(5割)、シドニー・ポンソン(4割8分)、マット・ムーア(4割5分8厘)、マーク・マルダー(4割4分)、マーク・バーリー(4割3分3厘)など、名だたる巧投手が並ぶ。「どんな球でも打ち返される」という印象が定着したのは、当然のなりゆきだろう」
3割台まで含めると、オールスター級の名前がぞろぞろ出てくる。リック・ポーセロには33打数13安打、ケヴィン・ミルウッドには84打数33安打、マイク・ムッシーナには34打数13安打、アンディ・ペティットには35打数13安打、バリー・ジートには71打数25安打、ジョン・レスターには56打数19安打、アーヴィン・サンタナには95打数32安打、CC・サバシアには65打数21安打という結果が残っている。ダルビッシュ有も24打数8安打と打ち込まれてきた。