スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
イチローと彼が戦った投手たち。
「研究者」だけが秘密を解ける?
posted2018/05/12 17:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
AFLO
イチロー・スズキが、ユニフォームを着たままの姿で球団のスタッフになった。今季はもう試合に出ない。来季以降も、去就は定かではない。通常ならば、「事実上の引退」とか「セミリタイアメント」とかいった言葉が持ち出されるところだ。
ただ彼は、記者会見で「野球の研究者」という言葉を使った。選手でも指導者でもなく、「研究者」。これはなにを意味するのか。
私は思う。イチローは、自身の反射神経や身体能力の衰えを認めつつ、野球の奥地にある秘密を追求する姿勢を崩していないのではないか。それも、頭だけで野球の秘密を追求するのではなく、あくまでも肉体を通じて、その奥地に分け入っていこうとする姿勢。具体的には……これがひと言ではまとめにくい。
45歳を超えて出場した4人の野手。
高齢の野球選手が、フィールドに戻ってくるケースは、いままでも少なからずあった。最も有名なのは、1953年、開幕時46歳の年に引退したサッチェル・ペイジ(当時セントルイス・ブラウンズ。最終年の成績は、3勝9敗、防御率3.53だった)のケースだ。
12年後の'65年、ペイジは59歳の高齢でカンザスシティ・アスレティックスの先発投手としてマウンドを踏んだ。3回を投げて、被安打1、奪三振1、無失点の好投。現場を見たわけではないのだが、ペイジ自身はいわゆる「トークン・アピアランス(名ばかりの出場)」の域を超えようとしていたのではないかという気がする。
過去30年以内の野手に限っていうと、開幕時45歳を超えて大リーグのフィールドに立った選手は、4人しかいない。'07年のフリオ・フランコ(48歳)、'86年のピート・ローズ(45歳)、'93年のカールトン・フィスク(45歳)、'12年のオマール・ビスケル(45歳)がその4人だ。イチローは彼らと肩を並べるのだろうか。
肩を並べればもちろん楽しいが、それが無理でも私はけっして失望しない。イチローは、2001年4月2日以降、17年と1カ月の長きにわたって、あの苛酷な世界で第一線に立ちつづけ、男を張りつづけてきた。これは、信じがたい継続と、驚異的な生存術の産物だ。なにをいまさら、と笑う人もいるだろうが、私はまずこの事実に、敬意をこめて大きな拍手を送りたい。