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ミシャサッカーを将棋的に見ると?
野月浩貴八段が驚く「選択肢と手数」。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byGetty Images
posted2018/05/01 10:30
柏を撃破し、ペトロヴィッチ監督の古巣・浦和にもドロー。札幌がJ1の台風の目になりつつある。
「サッカーと将棋の共通点はありますよ」
「ミシャさんが就任すると知った瞬間ですか? 『やったあ!』の一言です(笑)。ただそれと同時に『レッズの選手みたいに、ウチのチームがプレーできるのかな……』という、ちょっとした不安感はありましたけどね」
野月八段は朗らかな表情でこう語る。自身が攻めの棋風ということもあり、主導権を握るミシャスタイルには浦和時代から強く興味を持っていたとのこと。また札幌サポーターの雰囲気も、新たなスタイルを築いてくれるのでは、という期待感に満ちているのだという。
棋力ほぼ皆無の筆者が「攻撃時、両サイドハーフが上がって5トップみたいになりますけど、将棋で言えばいきなり両端の香車が両方成っちゃうみたいなもんですよね」と無理やり将棋に結びつけようとすると、野月八段は少し苦笑いしてこう返す。
「『この将棋の戦型と一緒!』とくくるのは、ちょっと難しいですよね(笑)。選手の動きも将棋の駒のように決まったものではないし、その日のコンディションによって動きのキレが変わってくるわけですから」
悪手を咎められた、切ない気分である。
ただ野月八段は「サッカーと将棋との共通点は間違いなくありますよ」と今の札幌が楽しい理由として、棋士らしい2つの観点を提示してくれた。
「攻撃の選択肢」の重要性。
まず「攻撃での選択肢」が大切な点だ。
「昨シーズンまで札幌は攻撃の形が限られていました。将棋はもちろんですが、サッカーも1つの戦法だけで戦えるものではないと思っています。だからこそ色々なバリエーションを見せてくれるミシャさんのサッカーには、期待感がありますね」(野月八段)
昨季まで、札幌の攻撃の形と言えば空中戦だった。精度の高い福森晃斗のハイクロスもしくはセットプレーで、187cmの都倉賢や190cmのジェイが競り勝つ。武骨さを感じさせる一方で、その手を封じられると攻め手を欠いた。
しかし今季は可変システムを取り入れたことで、明らかにパス回しがスムーズになった。また三好とチャナティップらの2シャドー、両サイドも高い位置でボールを受けて積極的にドリブルを仕掛けている。そんな試合展開を見ていて、野月八段はちょっと独特の楽しみ方をしている。
「これは私だけかもしれませんが、“選手が選択しなかったプレー”を想像するのが楽しいんです。例えば右サイドからの単純なクロスだけでなく、三好選手と駒井(善成)選手の連係で崩していくパターンもあります。そういったパターンが増えたことで、『試合ではこのプレーを選んだけど、この選手を使ったらどうだったんだろう?』と試合後も考えるのが楽しいんですよね」
将棋では対局後、お互いの手を振り返り合う「感想戦」というものがある。幼少の頃からそれに馴染んでいる野月八段は、サッカーでも試合を脳内で再現映像のようにイメージ化できるという。選択肢が増え、「もしここで、三好とのワンツーだったら……」と想像を働かせるのはたしかに面白そうだ。