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男女双方をバレー日本一へと導いた、
名将・酒井新悟の心をつかむ監督術。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2018/04/30 07:00
2017/2018シーズン、久光製薬はレギュラーシーズンを21戦全勝。ファイナル6で唯一の黒星を喫すも、酒井はチームを2季ぶり6度目の栄冠へと導いた。
「個の長所をいかにチームの武器とするか」
新日鐵から堺ブレイザーズへと活動形態が変わるチームの中で、選手、コーチとして過ごし、'09年に中垣内祐一・前監督の後を受ける形で監督に就任した。
能力も高く、自己主張もする。時に激しくぶつかり合う選手たちを束ねるために、酒井が監督として重視したのは「個の長所をいかにチームの武器とするか」ということだった。
たとえばサーブターゲットやゾーンが決まっていたとしても、そのコースを「狙わなければならない」と意識しすぎて腕が縮こまった中途半端なスイングになるぐらいなら、たとえ逆サイドにリベロがいたとしても、思い切ってスイングできるコースに打て、と指示をした。
「絶対こうしなきゃならないとはめ込む必要はないんです。約束事があって、優先順位があったとしても、それが自分の持ち味を発揮できないと感じれば『自分はこうしたい』と我を貫く選手も少なくなかったですから(笑)。それで『何であいつだけ勝手なことをするんだ』といがみ合うのではなくて、その能力を発揮することがチームにとってプラスなんだからお互いの長所を生かせばいい、と発想を変える。それがチームプレーだし、勝つために必要なことなんじゃないか、というのは何度も説いてきました」
男子と女子でまったく異なるコミュニケーション。
とはいえ、男子でうまくいったからといって、女子でも同様に進むとは限らない。
堺ブレイザーズの監督を退任後、'14年から3シーズンに渡り、U23、U20など、アンダーカテゴリーの日本代表を率いた後、'16年に久光製薬の監督に就任した。
運動能力や筋力、考え方。男女の違いは想像以上だった。
たとえばリードブロックやフロアディフェンスのシステムを新たに取り入れようと話しても、それまでブロックがワンタッチしたボールが後衛でレシーブに入る自分の頭上を越えていくようなシチュエーションが過去に何回あったか。その経験が少なければ、なかなか「取り入れよう」とは思えないのが女子の特徴でもある、と酒井は言う。
「男子の場合ならば、最初の約束事に対応しながらも、相手の反応を見て個人の能力や判断で別の策を取ることもできるのですが、女子は言われたことを守るというのが第一なのでなかなか発想の転換を即座にできない。
だからといって考え方をガラッと変えさせるというのではなく、“こうじゃなきゃダメ、こうやってきた”という考えをいかに納得させながら崩していくか、ということのほうが大事なんだと強く感じさせられました」
そのために不可欠なのがコミュニケーションなのだが、そのアプローチの仕方も男女で異なる。