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イラン代表には政治的圧力が存在?
追放された主力はW杯に出られるか。
posted2018/04/17 08:00
text by
杉山孝Takashi Sugiyama
photograph by
Getty Images
サッカーは、さまざまな人生を乗せて前進する。まるで、アジアの片隅を走るタクシーのように。
交通事故に遭って病院へ運んでくれと懇願し、車内で遺言を残そうとする夫とその妻。正午きっかりに泉に戻さないと自分は死ぬと信じ込み、硝子の鉢で金魚を運ぶ2人の老女。イランの奇才ジャファール・パナヒ監督は『人生タクシー』(原題“Taxi”)という作品の中で、運転手となってイランの首都テヘランを流す。車載カメラを通したドキュメントともフィクションともつかない体で、車内で時間を共有するさまざまな境遇の市民の声に耳を傾けていく。
非日常的な客だけではなく、シートにはおしゃまな女の子も座る。授業で映画を学んだ姪っ子は、ハンドルを握る叔父に国内上映のルールを教える。求められるのは「俗悪なリアリズムや暴力」を排除し、「政治や経済に触れない」こと……。
「監督なら分かるでしょ?」
どこの世界でも、男に言い聞かせるのが女性の役目だ。
強い女性は、他にも出てくる。積極的な活動が仲間のはずの同業者から目をつけられ、協会から業務停止を受けた女性弁護士だ。「試合を見る前に逮捕されたの」。バレーボール観戦に出かけて逮捕された女性に会いに行くところだったというこの弁護士は、知己(そして、おそらく同志)が運転する車の後部座席に滑り込むと、行き先をこう告げる。
「天国へ!」
イラン代表で主将を務めた男の悲劇。
世界には、歴史や宗教に根差した独特のしきたりやルールがある。他国から見れば奇異極まりなくても、文化というものを尊重するならば、簡単に全否定することはできない。だが、守られなければならないものはある。例えばそのひとつが、スポーツ。人生の一部を成すものだ。
イランで1人、人生を奪われかけたサッカー選手がいる。
マスード・ショジャエイ。今年に入り、ギリシャのAEKアテネでプレーしている。イラン代表で、キャプテンも務めていた男だ。