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イラン代表には政治的圧力が存在?
追放された主力はW杯に出られるか。
text by
杉山孝Takashi Sugiyama
photograph byGetty Images
posted2018/04/17 08:00
アジアで最も安定した力を見せているイラン。しかしショジャエイのように複雑な問題を抱えた選手もいる。
「僕に起こり得る最悪の事件だった」
いずれにせよ、背番号7は帰ってきた。チュニジア戦はハーフタイムで退いたが、慣れ親しんだキャプテンマークを巻いたMFは、空白の時間をこう振り返った。
「人生では時に、自分で制御できないことが起こるし、僕にとってはそれが競技人生において起きた。いつでもすべてを自分の制御下に置けるわけではないし、あの事件が起きて、僕はしばらく代表チームに入らなかった。僕に起こり得る最悪の事件だったと思う」
映画の世界の話ではない。
もう1人、イラン代表で注目を集める選手がいる。1月にフリートランスファーで移籍したノッティンガム・フォレストで負傷し、W杯出場が危ぶまれているアシュカン・デヤガだ。
両親に連れられて1歳で渡ったドイツでサッカーを学んだデヤガは、イラン代表のキーマンの1人である。だが、今回世界が注視したのはピッチ外での1枚の写真だった。
サッカーを「偏見と戦争抜きの1つの言語である」と記したのは、治療のためにロンドンを訪れていたイスラエル代表、マッカビ・ハイファのマオル・ブザグロ。デヤガと笑顔で収まるSNS上の2ショットには、こんな言葉も添えられていた。
「僕らが示しているのは、違ってもいいんだ、ということ」
イラン人初のW杯3大会出場となるか。
冒頭に紹介した映画『人生タクシー』の最後では、国内での上映許可が降りなかったことが明かされる。「俗悪なリアリズム」。姪っ子が口にしたセリフが、皮肉にリフレインする。
イラン国内の人々の目に触れなかったこの作品は、しかし、世界の人々の心を動かした。ベルリン国際映画祭は、最高賞である「金熊賞」を与えた。気高さと映画への愛は、確かに伝わった。
異なる価値観が、1つの言語を介して通じ合う。ピッチの上では、美しいものを目にできる。おそらく、6月のロシアでも。
ショジャエイがロシア大会に出場したならば、イラン人選手として初となるW杯3大会出場を果たすことになる。そうなれば、「僕のスポーツ人生で最大にして、決して忘れられない一日になるだろう」。
人生がサッカーを、サッカーが人生を運んでいく。