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青木宣親の挑戦が残した功績とは。
肉体の違いに抗ったメジャー6年間。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byKyodo News
posted2018/02/07 11:30
メジャーのFA市場停滞も受けて、7年ぶりにヤクルト復帰を決断。背番号は入団時の「23」。
メジャーが肉体改造に本気になった時期と重なった。
青木の闘いは、イチローをはじめとする他の日本人野手がそうであったように、日本人の肉体と外国人の肉体の決定的な違いとの闘いでもあった。
メジャーリーグは2000年代の前半に一部の選手によるパフォーマンス向上薬品(PED)の使用が発覚して以来、サプリメント(補助食品)の扱いに敏感になり、PEDを使わずに効率よく筋力を鍛え、関節の可動域を広げ、体の各部が連動するトレーニング法を追求した。
そのお陰だろう。20年前なら「カンフー・パンダ」ことパブロ・サンドバル(昨季レッドソックスとジャイアンツ)のような太った選手もよく見かけたものだが、今ではかなり珍しくなっている。
大学時代からプロに匹敵する施設と指導者の下でトレーニングを積んできた選手たちは、オフになると専属トレーナーの下で厳しいトレーニングを自らに課すようになった。
パフォーマンス向上のための意識も自ずと高まり、たとえばバットスピードを上げるためには上半身だけではなく、体幹や下半身を鍛えることが常識となった。
昨年のワールドシリーズで対戦したアストロズとドジャースの若い選手たちが、単にパワーがあるだけではなく、いずれも均整の取れた体つきをしていたのは偶然ではない。
青木が「メジャー挑戦」をしたのは、そういう変革の時代の真っ只中だった。
「楽しんでしまった方がいいでしょ?」
鍛え上げられたメジャーリーガーたちと互角に戦うために、青木はオフの食事を見直し、トレーニングを変えた。なかなか結果が出ず、守備固めで打席数が減ったり、ビジネス上の理由でマイナーに留まることを余儀なくされたり。
そんな時、「破顔一笑」という言葉が似合う彼は、「悔しいのは当たり前だけど」と前置きをし、可笑しそうに笑いながら、こう続けるのだった。
「どっちか選べってんなら、楽しんでしまった方がいいでしょ?」と。
彼の言う「楽しむ」とは、野球に対して真摯に向き合うことである。
そんなノリ・アオキ=青木宣親は、これから日本で何を残すのか。
青木だけではなく、東京ヤクルトスワローズにとっても、それは1つのテーマになるのではないかと思う。