サムライブルーの原材料BACK NUMBER
川崎・車屋紳太郎「去年は何かが」
風間仕込みの技術、鬼木仕込みの執念。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2017/11/04 07:00
川崎躍進の立役者としても、日本代表にとって懸案だった左SBとしても、車屋紳太郎の存在感は日々増す一方である。
多くのタイトルに手が届きかけたが、昨年は1つも……。
筑波大、プロに入ってから昨年までは「恩人」と語る風間八宏監督のもとで技術を高めてきた。ボールを置く位置まで細かく指導を受けた。そして今年、コーチから昇格した鬼木監督からは「球際へのこだわり」「勝利への執念」を叩き込まれてきた。
「去年はファーストステージを取るチャンスから始まって、年間1位、チャンピオンシップ、天皇杯を取るチャンスがあった。でも取れなかった。何かが足りないんだと思いました。そこで鬼木監督がもっと闘う部分とかを強調して、それをシーズン通してやってきたつもりです」
試合が最後に動く「等々力劇場」がフロンターレの売りだが、粘り強く勝利を拾っている試合が目立つ。10月14日のベガルタ仙台戦は、2点ビハインドでなおかつ1人少ない状況から残り8分で3点を奪って逆転勝ちを収めた。このうち車屋は2点に絡んでいる。「どんなに(内容が)良くなくても、最後まであきらめない。90分通して、最後に勝てればいいって思っています」
そう言って、彼は真っ直ぐ前を見据えた。
メンタルのタフさを証明した退場からの立ち直り。
メンタルでも、タフネスぶりを証明した出来事がある。
9月13日、浦和レッズとのACL準々決勝第2戦。ホームでの第1戦に3-1で勝利し、チームは優位に立っていた。
前半38分、興梠慎三との競り合いで、高く上げた車屋の左足が相手の顔に向かう危険なプレーと判断され、一発退場となった。両手を挙げて判定に不満の色を示したものの、彼はピッチから去るほかなかった。試合の流れはレッズに傾き、準決勝進出を相手に譲った。結果的に「迷惑をかけてしまった」と、ひどく落ち込んだ。だが、サッカーで起こったことはサッカーでしか取り返せないと彼は己に言い聞かせた。
翌日のトレーニング。先発組はコンディションの回復に充てるなか、彼は志願して中2日の清水エスパルス戦に向けた全体トレーニングに加わった。
「落ち込んでいてもボールを蹴ることが、気持ちを切り替えるには一番いいと思ったので監督にやらせてほしいと言いました。連戦だったので、清水戦で取り返すしかないと思っていました。正直、今までにないぐらい気合いが入っていました。ゴールに絡むプレーをやらなきゃと思っていました」